アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ(修正中)
「ああ。丁度。何か温かい物でも飲んで、寝ようと思っていたところだ。どうだ? 一緒に飲まないか?」
「いいんですか?」
「当然だろう。淹れてくるから、この部屋で待っているといい」
「それなら、私が淹れます」
「飲み物くらい、俺でも用意出来るさ。アリーシャは部屋のソファーに座って待っていてくれ」

 オルキデアの言葉に甘えて待つ事にして、アリーシャはオルキデアの部屋に入る。
 作りはアリーシャの部屋と同じだろう。家具も似たデザインのものが揃っていた。
 ソファーに座ると、読みかけと思しき本が、開かれた状態で机の上に付せられていた。
 タイトルから察すると、どうやら小説のようだった。

 仮眠室で山積みになっていた戦術や実務的な本ばかりを見ていた分、小説を読むオルキデアが意外であった。
 クスリと笑うと、また部屋の窓が風でカタカタと音を立てた。
 ソファーの端を掴んで、アリーシャは窓を見る。
 風はまた強くなっているようだった。カタカタ揺れる窓を見ながら、「大丈夫」と言い聞かせる。

(オルキデア様が近くにいるもの。大丈夫)

 さっきとは違い、まだオルキデアが起きていたと分かったので気持ちは楽になっていた。
 けれども、次の風が吹いた瞬間、ドサッと外で何かが倒れたような一際大きな音が聞こえてきた。
 ビクリと飛び上がりそうなくらいに驚くと、アリーシャはその場で身を縮めたのだった。

(庭の梯子でも倒れたか?)

 その頃、厨房のコンロでお湯を沸かしていたオルキデアは、庭から聞こえてきた物音にそう考えていた。
 以前、庭の手入れをしているメイソンが、大きな梯子を持っているのを見たことがあった。
 今の物音はきっとそれが倒れた音だろう。
 外壁や庭に被害が出ていなければいいが。

 オルキデアが息を吐くと、丁度、やかんのお湯が沸いたようだった。
 オルキデアは火を止めると、マルテが用意してくれていたカップと茶葉を使って、二人分のお茶を淹れたのだった。

 カップが載ったトレーを持って部屋に戻ると、ソファーに座るアリーシャに近づく。
 しかし、近づくにつれて、アリーシャの様子がおかしいことに気づいたのだった。

「アリーシャ?」

 ソファーの上で身を縮めていたアリーシャはオルキデアに気づくと、「なんでもないです」と答える。
 テーブルにトレーを置いて、いつものように対面に座ろうとすると、「あの……!」と声を掛けられる。

「隣に座ってもいいですか……?」
「別に構わないが」

 それなら、立っている自分が動いた方がいいだろうと、戻ってアリーシャの隣に座る。
 カップを手に取ってお茶を飲むと、燻した茶葉の香ばしい匂いが漂い、自然と肩から力が抜けた。

 トレーごとアリーシャにも差し出すと、おそるおそるカップを手に取って口に含む。
 アリーシャが肩の力を抜いて、ホッと安心した様子を見せると、オルキデアは声を掛ける。

「それを飲んだら、身体が温かい内に寝た方がいい。風が吹き始めたから、今夜は冷えるぞ」
「そうですね。温かい物を飲んで落ち着きましたし、今度こそ寝れそうです」
「俺も今度こそ寝れそうだ。こうも寝具が柔らかいと、落ち着いて眠れん」
「オルキデア様もですか?」
「という事は、君も?」
「私も、ベッドがふかふかで落ち着かなくて」

 二人で顔を見合わせると微笑み合う。
 すると、また風が一際強く吹いて、窓ガラスが音を立てたのだった。
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