アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ(修正中)
「風が強く吹いてきたな。さっきも庭の梯子が倒れたようだし、これからますます強くなるかもしれん……」

 ふと、アリーシャを見つめると、ソファーの端を掴んで、ギュッと何かを耐えている様子であった。

「どうした?」
「……いえ、大したことでは」

 オルキデアから顔を背けたアリーシャが言いかけた時、また強く風が吹いて、大きく肩を震わせる。
 何かを探すように、顔を背けたままソファーの上を探すアリーシャの手に、オルキデアはそっと自らの手を重ねる。

「オルキデア様?」

 アリーシャがそっと振り向く。

「怖いのか?」
「いえ……」
「大丈夫だ」

 ハッと、菫色の瞳が大きく開かれる。

「これくらいの風で屋敷は壊れん。窓もな。君が不安になる必要はない」
「それもそうですが、そうじゃないんです」
「そうじゃない?」

 アリーシャは伺うように、下からじっと上目遣いに見つめてくる。

「屋敷内が静かなので、不安になるんです。まるで、私だけがこの屋敷に取り残された気持ちになってしまって……。シュタルクヘルト(あっち)も、軍も、もっと人の気配があったので」

 人の気配はないのに、風の音や物音ばかり聞こえてきて、アリーシャはだんだん不安になった。

 ーーもしかしたら、今までの出来事は全て夢であって、既に自分はあの襲撃で死んでいるのではないかと。

「それもあって、だんだん不安で目が冴えてしまって……。でも、オルキデア様の顔を見たら安心しました。これを飲み終わったら、部屋に戻りますね」
「……君もか」
「えっ? 私も?」
「いや、何でもない。……不安なら、俺と一緒に寝るか?」
「ええっ!」
「冗談だ」

 だが、オルキデアの部屋もアリーシャの部屋のベッドも、二人は寝れるくらいの大きさがあった。
 アリーシャが望むなら、と思ったが、さすがにそれは考えていなかったのだろう。

「ああ。でも。一人が寂しいなら、俺のベッドで寝ていいぞ」
「そうしたら、オルキデア様はどこで寝るんですか?」
「ソファーだ。いつものことだから問題ない。ゆっくり寝られるだけまだいい方だ」

 実際、執務室でもずっとソファーに寝ていたのだ。
 ソファーに限らず、前線の戦場にもいた経験のあるオルキデアは、地面に寝た事もある。
 地面に寝れただけでもまだいい方で、敵に囲まれて、数日間一睡も出来なかった事もある。
 そう思って言ったつもりだったが、しかしアリーシャは「問題ありますよ!」と打てば響くように返してきたのだった。

「そこまでしてまで、ベッドをお借りする訳にはいきません。それなら、私は自分の部屋で寝ます」
「一人で大丈夫なのか?」
「それは……」

 口ごもるアリーシャに、オルキデアは大きく息を吐き出す。

「二人くらいなら余裕で寝れるだろう……隣で寝てもいいか? 勿論、ただ隣で寝るだけだ」
「……はい」

 そうして、カップが空になると、どちらともなくベッドに入ったのだった。
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