アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ(修正中)
仮の名前
その日の夕食時。
オルキデアは女性の元に食事を運ぶという新兵に付き添って、女性が療養する病室に向かっていた。
「自分が食事を持って行きながら、女性から話を聞く」とオルキデアは言ったが、「これは自分の仕事です」と言って、新兵が譲ってくれなかったのだった。
食堂で食事を受け取り、病室に行くまでは、特に異変はなかった。
今年、志願兵として入隊したばかりだというこの新兵によると、女性に食事を運ぶ役割は、その時々で担当者が変わるらしい。
主にその時に手が空いている者が担うらしく、食堂で食事を受け取り、女性の元に直接運ぶそうだ。
(特に異変はないようだが……)
訝しみつつも、二人は女性が療養している部屋に辿り着く。
怪我をしている間は、独房ではなく、すぐに医師や医療スタッフが駆けつけられる医療区画に部屋があった方がいいと思い、この基地に来た時に医師に提案していた。
その後、何も聞かされなかったが、どうやらこの部屋を割り当てられたらしい。
(怪我が治ったら、他の捕虜と同じく、独房への移動を指示した方がいいか?)
そうしなければ、他の捕虜との扱いの差について、兵から不満の声が出るかもしれない。
そんなことを考えながら、病室の前に立っている下士官に敬礼すると、食事のトレーを持った新兵に続いて、オルキデアは部屋に足を踏み入れたのだった。
「失礼します。お食事をお持ちしました」
ベッドで横になっていた女性は、身体を起こすと瞬きを繰り返していた。
「こちらに置かせて頂きます」
緊張した様子を見せつつも、新兵はペルフェクト語で話しかけながら、ベッドに備え付けのテーブルを整えた。
そうして、そっと食事のトレーを置いたのだった。
敵国の女性とはいえ、丁重に扱う兵ーーおそらく、女性については何も知らされていないだろう。に関心すると、オルキデアは室内を見渡す。
室内には、ベッドと一人掛け用の丸椅子があるだけの質素な部屋であった。
自傷する様な物も無ければ、怪我を負ってしまう物も無かった。
一体、何が起こっているのだろうか?
「それでは、また後ほど」
新兵は食事を置くと、速やかに退室した。
しばらくしたら、トレーを受け取りに来るのだろう。
退室する兵を見送っていると、オルキデアをじっと見つめてくる菫色の視線に気づく。
「こんな時間にすまない。確認したいことがあって来た。食事をしながらでいいから、確かめさせてくれ」
女性を安心させる様に、シュタルクヘルト語で話しかけながら、オルキデアは壁際に立つ。
けれども、女性は急に視線を彷徨わせたかと思うと、困惑したように、「あの……」と話し出したのだった。
「そうやって見られていると、食べづらいです……。せめて、座って下さい」
「ああ、そうだな。すまない。気づかなかった」
オルキデアは椅子を持ってくると、ベッドから少し離れたところに座る。
けれども、女性はフォークで料理を突き、かき混ぜ、匂いを嗅ぐばかりで、料理に口をつけようとはしなかった。
「どうした? 何かあったのか?」
女性は一度、オルキデアの顔を見るが、すぐ目を伏せた。
何度か口を開閉をして言いづらそうにした後、決心がついたのか、口を開いたのだった。
「今日は何も盛られていないんですね。痺れ薬も、怪しげな薬も」
オルキデアは女性の元に食事を運ぶという新兵に付き添って、女性が療養する病室に向かっていた。
「自分が食事を持って行きながら、女性から話を聞く」とオルキデアは言ったが、「これは自分の仕事です」と言って、新兵が譲ってくれなかったのだった。
食堂で食事を受け取り、病室に行くまでは、特に異変はなかった。
今年、志願兵として入隊したばかりだというこの新兵によると、女性に食事を運ぶ役割は、その時々で担当者が変わるらしい。
主にその時に手が空いている者が担うらしく、食堂で食事を受け取り、女性の元に直接運ぶそうだ。
(特に異変はないようだが……)
訝しみつつも、二人は女性が療養している部屋に辿り着く。
怪我をしている間は、独房ではなく、すぐに医師や医療スタッフが駆けつけられる医療区画に部屋があった方がいいと思い、この基地に来た時に医師に提案していた。
その後、何も聞かされなかったが、どうやらこの部屋を割り当てられたらしい。
(怪我が治ったら、他の捕虜と同じく、独房への移動を指示した方がいいか?)
そうしなければ、他の捕虜との扱いの差について、兵から不満の声が出るかもしれない。
そんなことを考えながら、病室の前に立っている下士官に敬礼すると、食事のトレーを持った新兵に続いて、オルキデアは部屋に足を踏み入れたのだった。
「失礼します。お食事をお持ちしました」
ベッドで横になっていた女性は、身体を起こすと瞬きを繰り返していた。
「こちらに置かせて頂きます」
緊張した様子を見せつつも、新兵はペルフェクト語で話しかけながら、ベッドに備え付けのテーブルを整えた。
そうして、そっと食事のトレーを置いたのだった。
敵国の女性とはいえ、丁重に扱う兵ーーおそらく、女性については何も知らされていないだろう。に関心すると、オルキデアは室内を見渡す。
室内には、ベッドと一人掛け用の丸椅子があるだけの質素な部屋であった。
自傷する様な物も無ければ、怪我を負ってしまう物も無かった。
一体、何が起こっているのだろうか?
「それでは、また後ほど」
新兵は食事を置くと、速やかに退室した。
しばらくしたら、トレーを受け取りに来るのだろう。
退室する兵を見送っていると、オルキデアをじっと見つめてくる菫色の視線に気づく。
「こんな時間にすまない。確認したいことがあって来た。食事をしながらでいいから、確かめさせてくれ」
女性を安心させる様に、シュタルクヘルト語で話しかけながら、オルキデアは壁際に立つ。
けれども、女性は急に視線を彷徨わせたかと思うと、困惑したように、「あの……」と話し出したのだった。
「そうやって見られていると、食べづらいです……。せめて、座って下さい」
「ああ、そうだな。すまない。気づかなかった」
オルキデアは椅子を持ってくると、ベッドから少し離れたところに座る。
けれども、女性はフォークで料理を突き、かき混ぜ、匂いを嗅ぐばかりで、料理に口をつけようとはしなかった。
「どうした? 何かあったのか?」
女性は一度、オルキデアの顔を見るが、すぐ目を伏せた。
何度か口を開閉をして言いづらそうにした後、決心がついたのか、口を開いたのだった。
「今日は何も盛られていないんですね。痺れ薬も、怪しげな薬も」