アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ(修正中)
人が多く、広い書店で、アリーシャをなかなか見つけられないだろうと思っていたら、案外早く見つけられた。
アリーシャは、ハルモニア語の書籍を扱う棚の前で立ち読みをしていた。
あまりに本に夢中になっているようで、オルキデアが近づいても気づかないくらいであった。
「アリーシャ」
小声で遠慮気味に話しかけると、「オルキデア様!?」とようやく気がついたのだった。
「いつの間に、ここに……」
「今来たところだ。随分と熱心に読んでいたな。気に入ったのか?」
「気に入ったと言いますか……。以前、読んだ本の続きが出ていたので、つい……」
アリーシャが持つ本に視線を落とすと、ソフトカバーの女性向けの作品のようであった。
「どんな話なんだ?」
「恋愛小説です。敵対する二つの国に住む男女が、とある仮面舞踏会で知り合って恋に落ちるんですが、国を理由に引き裂かれてしまうんです」
「敵対する二つの国に住む男女」という部分が、まるで自分とアリーシャのようであった。ーー仮面舞踏会で知り合っていなければ、恋にも落ちていないが。
「女子というのは、恋愛小説が好きなんだな。その本はペルフェクト語でも出ていないか? 昔、セシリアが読んでいたのを見た気がするな」
「セシリアさんも?」
「ああ。学校で流行っていると言っていたな」
士官学校に入学するまでは、父上と一緒によくコーンウォール家に行っていた。
その際に、まだ学生だったセシリアがよく似たタイトルの本を読んでいた気がしたのだった。
「読んでいたと言っても数年前だ。それもペルフェクト語のな。ハルモニア語ではなかったが」
「本自体は数年前にハルモニア人が書いたハルモニア語が原作です。もしかしたら、ペルフェクト語に翻訳されて販売されていたかもしれません」
「そうなのか?」
「私が読んだのは、嫁いだ姉が置いていったシュタルクヘルト語に翻訳された本ですが、同じようにペルフェクト語でも翻訳されていたかもしれません」
パタンと本を閉じて棚に戻そうとするアリーシャに、「買わなくていいのか?」と尋ねる。
「でも、悪いですし……」
「遠慮しなくていい。本くらい大して高くないしな」
アリーシャは迷った末に、「続きが気になるので、お言葉に甘えて……」と、棚に戻そうとした本をオルキデアに渡してくる。
「ハルモニア語でいいのか?」
「シュタルクヘルト語の本を読んだ」ということは、シュタルクヘルト語に翻訳された本もあるはずだ。
オルキデアの言葉に、アリーシャは頷いた。
「翻訳されたものだと、翻訳者によって言葉が違うじゃないですか。
言葉が違えば、作品や場面の雰囲気も変わってきます。作者が意図する場面と雰囲気を味わいたいなら、やっぱり原作を読むのが一番良いと思うんです」
珍しく饒舌に語ったアリーシャに、何度も瞬きを繰り返してから、「それもそうだな」と返す。
「本や作者への思い入れが深いんだな」
「せっかく、ハルモニア語やペルフェクト語を覚えても、これまで読書くらいしか使い道がなかったので……」
アリーシャによると、娼婦街に住んでいた頃や、シュタルクヘルト家の屋敷から出させて貰えなかった頃、母国語であるシュタルクヘルト語以外の使い道といえば、読書ぐらいしかなかったらしい。
読書していて知らない単語が出てくると、人に聞くか、自分で調べた。紙に書き溜めて、単語帳のように持ち歩いたこともあったそうだ。
そうやって、知らない単語を調べて、覚えていく内に、読める本がどんどん増えていったのが、楽しかったとのことだった。
アリーシャは、ハルモニア語の書籍を扱う棚の前で立ち読みをしていた。
あまりに本に夢中になっているようで、オルキデアが近づいても気づかないくらいであった。
「アリーシャ」
小声で遠慮気味に話しかけると、「オルキデア様!?」とようやく気がついたのだった。
「いつの間に、ここに……」
「今来たところだ。随分と熱心に読んでいたな。気に入ったのか?」
「気に入ったと言いますか……。以前、読んだ本の続きが出ていたので、つい……」
アリーシャが持つ本に視線を落とすと、ソフトカバーの女性向けの作品のようであった。
「どんな話なんだ?」
「恋愛小説です。敵対する二つの国に住む男女が、とある仮面舞踏会で知り合って恋に落ちるんですが、国を理由に引き裂かれてしまうんです」
「敵対する二つの国に住む男女」という部分が、まるで自分とアリーシャのようであった。ーー仮面舞踏会で知り合っていなければ、恋にも落ちていないが。
「女子というのは、恋愛小説が好きなんだな。その本はペルフェクト語でも出ていないか? 昔、セシリアが読んでいたのを見た気がするな」
「セシリアさんも?」
「ああ。学校で流行っていると言っていたな」
士官学校に入学するまでは、父上と一緒によくコーンウォール家に行っていた。
その際に、まだ学生だったセシリアがよく似たタイトルの本を読んでいた気がしたのだった。
「読んでいたと言っても数年前だ。それもペルフェクト語のな。ハルモニア語ではなかったが」
「本自体は数年前にハルモニア人が書いたハルモニア語が原作です。もしかしたら、ペルフェクト語に翻訳されて販売されていたかもしれません」
「そうなのか?」
「私が読んだのは、嫁いだ姉が置いていったシュタルクヘルト語に翻訳された本ですが、同じようにペルフェクト語でも翻訳されていたかもしれません」
パタンと本を閉じて棚に戻そうとするアリーシャに、「買わなくていいのか?」と尋ねる。
「でも、悪いですし……」
「遠慮しなくていい。本くらい大して高くないしな」
アリーシャは迷った末に、「続きが気になるので、お言葉に甘えて……」と、棚に戻そうとした本をオルキデアに渡してくる。
「ハルモニア語でいいのか?」
「シュタルクヘルト語の本を読んだ」ということは、シュタルクヘルト語に翻訳された本もあるはずだ。
オルキデアの言葉に、アリーシャは頷いた。
「翻訳されたものだと、翻訳者によって言葉が違うじゃないですか。
言葉が違えば、作品や場面の雰囲気も変わってきます。作者が意図する場面と雰囲気を味わいたいなら、やっぱり原作を読むのが一番良いと思うんです」
珍しく饒舌に語ったアリーシャに、何度も瞬きを繰り返してから、「それもそうだな」と返す。
「本や作者への思い入れが深いんだな」
「せっかく、ハルモニア語やペルフェクト語を覚えても、これまで読書くらいしか使い道がなかったので……」
アリーシャによると、娼婦街に住んでいた頃や、シュタルクヘルト家の屋敷から出させて貰えなかった頃、母国語であるシュタルクヘルト語以外の使い道といえば、読書ぐらいしかなかったらしい。
読書していて知らない単語が出てくると、人に聞くか、自分で調べた。紙に書き溜めて、単語帳のように持ち歩いたこともあったそうだ。
そうやって、知らない単語を調べて、覚えていく内に、読める本がどんどん増えていったのが、楽しかったとのことだった。