アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ(修正中)
手に持っていた本が落ちる音で、オルキデアは目を覚ます。
どうやら、少し眠ってしまったようだった。
寄り掛かっていたソファーから身を起こすと、本を拾い上げた。
テーブルに本を置いて、壁掛け時計を確認すると、約四十分ほど寝ていたらしい。
平時だからいいが、ここが戦場だったら命取りになるところだった。
息を吐きながら肩の力を抜いて、またソファーに寄り掛かると、背中の後ろに違和感を覚える。
背中に手を回して引っ張ると、どこかで見たような布地が出てくる。
(これは……)
まだ寝惚けた頭で考えると、アリーシャが肩に掛けていたショールだったと思い出す。
(アリーシャは?)
向かいのソファーに視線を移して、オルキデアは紫色の目を大きく見張る。
目の前には、膝の上に本を広げたままソファーに寄り掛かって、すやすやと眠るアリーシャの姿があったのだった。
その無防備な姿を、つい見入ってしまう。
目を閉じ、小さく口を開けて、あどけない顔で眠る姿に、アリーシャが自分より歳下の娘であることを思い出させられる。
もしかしたら、今日まで必死に背伸びして、大人のように振る舞おうとしていたのかもしれない。
テーブルの上に広げたままにしていた本を片付けると、その隣に畳んだショールを置く。
ソファーから立ち上がると、アリーシャの側に向かったのだった。
(起こすのは悪いか)
おそらく、オルキデアにショールを掛けた後、つられて寝てしまったのだろう。
歩き疲れていたのは同じだというのに。
眦を下げると、アリーシャが膝の上に広げていた本を取り上げて、テーブルの上に置く。
(このままだと風邪を引くな)
何も掛けずに寝ているので、このまま放っておいたら風邪を引いてしまう。
一度自分のベッドに向かい、シーツや掛布を整えると、またアリーシャの元に戻ってくる。
そうして、ソファーに寄り掛かる背中に腕を回すと、その華奢な身体を持ち上げたのだった。
(軽いな)
それでも、彼女の部屋まで運んでいたら、身体が冷えてしまう。
アリーシャを運ぶと、先程整えたベッドにそっと寝かせる。
風邪を引かないように、肩まで掛布を掛けると、白磁のようなアリーシャの頬に触れたのだった。
出会った頃に負っていた傷は、跡形もなくすっかり消えていた。
顎近くまで頬を撫でると、形の良い唇の下に親指を這わせる。
これまでの一夜だけの付き合いなら、身体だけではなく唇も平気で奪っていた。
どちらも、減るものではないからだった。
けれども、目の前で眠る仮初めの妻の唇だけは、たやすく奪ってはならないような気持ちにさせられる。
それどころか、自分が守ってあげなければならないという、庇護欲さえ掻き立てられていた。
それともう一つ、得体の知れない感情が、オルキデアを襲ってくる。
身体の内側から、むくむくと湧き上がるこの気持ちはなんなのか。
それは、オルキデア自身にも分からなかった。
今も、この形の良い唇に触れたいと思う反面、触れてはいけないと自らを自制する声が内側から聞こえてくる。
頬から手を離すと、今度は額に手を伸ばす。
前髪を分けて白い額が見えると、顔を近づけたのだった。
「……おやすみ」
ここには君を脅かすものは何もない。だから、今はゆっくり眠って欲しい。
そう願いを込めて、その額にそっと口づけを落としたのだった。
アリーシャから離れると、オルキデアは部屋の明かりを落として隣に寝そべる。
ベッド以外で寝たことをアリーシャが知ってしまったら、それこそしきりに恐縮するに違いない。
(ま、それも可愛いが)
掛布を直し、隣で眠るアリーシャを見つめて笑みを浮かべると、そっと目を閉じたのだった。
どうやら、少し眠ってしまったようだった。
寄り掛かっていたソファーから身を起こすと、本を拾い上げた。
テーブルに本を置いて、壁掛け時計を確認すると、約四十分ほど寝ていたらしい。
平時だからいいが、ここが戦場だったら命取りになるところだった。
息を吐きながら肩の力を抜いて、またソファーに寄り掛かると、背中の後ろに違和感を覚える。
背中に手を回して引っ張ると、どこかで見たような布地が出てくる。
(これは……)
まだ寝惚けた頭で考えると、アリーシャが肩に掛けていたショールだったと思い出す。
(アリーシャは?)
向かいのソファーに視線を移して、オルキデアは紫色の目を大きく見張る。
目の前には、膝の上に本を広げたままソファーに寄り掛かって、すやすやと眠るアリーシャの姿があったのだった。
その無防備な姿を、つい見入ってしまう。
目を閉じ、小さく口を開けて、あどけない顔で眠る姿に、アリーシャが自分より歳下の娘であることを思い出させられる。
もしかしたら、今日まで必死に背伸びして、大人のように振る舞おうとしていたのかもしれない。
テーブルの上に広げたままにしていた本を片付けると、その隣に畳んだショールを置く。
ソファーから立ち上がると、アリーシャの側に向かったのだった。
(起こすのは悪いか)
おそらく、オルキデアにショールを掛けた後、つられて寝てしまったのだろう。
歩き疲れていたのは同じだというのに。
眦を下げると、アリーシャが膝の上に広げていた本を取り上げて、テーブルの上に置く。
(このままだと風邪を引くな)
何も掛けずに寝ているので、このまま放っておいたら風邪を引いてしまう。
一度自分のベッドに向かい、シーツや掛布を整えると、またアリーシャの元に戻ってくる。
そうして、ソファーに寄り掛かる背中に腕を回すと、その華奢な身体を持ち上げたのだった。
(軽いな)
それでも、彼女の部屋まで運んでいたら、身体が冷えてしまう。
アリーシャを運ぶと、先程整えたベッドにそっと寝かせる。
風邪を引かないように、肩まで掛布を掛けると、白磁のようなアリーシャの頬に触れたのだった。
出会った頃に負っていた傷は、跡形もなくすっかり消えていた。
顎近くまで頬を撫でると、形の良い唇の下に親指を這わせる。
これまでの一夜だけの付き合いなら、身体だけではなく唇も平気で奪っていた。
どちらも、減るものではないからだった。
けれども、目の前で眠る仮初めの妻の唇だけは、たやすく奪ってはならないような気持ちにさせられる。
それどころか、自分が守ってあげなければならないという、庇護欲さえ掻き立てられていた。
それともう一つ、得体の知れない感情が、オルキデアを襲ってくる。
身体の内側から、むくむくと湧き上がるこの気持ちはなんなのか。
それは、オルキデア自身にも分からなかった。
今も、この形の良い唇に触れたいと思う反面、触れてはいけないと自らを自制する声が内側から聞こえてくる。
頬から手を離すと、今度は額に手を伸ばす。
前髪を分けて白い額が見えると、顔を近づけたのだった。
「……おやすみ」
ここには君を脅かすものは何もない。だから、今はゆっくり眠って欲しい。
そう願いを込めて、その額にそっと口づけを落としたのだった。
アリーシャから離れると、オルキデアは部屋の明かりを落として隣に寝そべる。
ベッド以外で寝たことをアリーシャが知ってしまったら、それこそしきりに恐縮するに違いない。
(ま、それも可愛いが)
掛布を直し、隣で眠るアリーシャを見つめて笑みを浮かべると、そっと目を閉じたのだった。