アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ(修正中)
「アリーシャ」
「はい」
輝くような菫色の瞳に見つめられて、オルキデアは微笑を浮かべる。
柔肌の両頬をそっと撫でると、親指と人差し指でそれぞれ引っ張ったのだった。
「……あにょ」
「なんだ?」
頬を引っ張られているからか上手く呂律が回っていなかったが、それでもアリーシャは話し続けた。
「なにちているんでつか?」
「触り心地がいいから引っ張っている」
指で軽く揉んでから指を離すと、アリーシャは「もう!」と口を尖らせたのだった。
「オルキデア様ばっかりズルイです!」
「じゃあ、お前はどうしたい?」
「どうしたいと、急に言われても……」
うーんと悩んでいたアリーシャだったが、やがて何かを閃いたのか、菫色の瞳を見開いて顔を輝かせた。
「あの、両手をお借りしてもいいですか?」
「それくらい構わないが……」
オルキデアが両手を差し出すと、アリーシャは先程と同じ様に、手袋をつけた両手で挟む。
そうして顔に近づけると、「ハァ~ッ」と息を吐いたのだった。
「何をしているんだ」
「オルキデア様の手を温めているんです。いっつも触れられる度に、冷たいと思っていたので」
「そこまで冷たかったか……?」
「……多少は。で、でも、手が冷たいというのは反対に、心が温かい証拠だって、聞いたことがあるので!」
アリーシャが話す度に、吐息が手にかかってむず痒い。
「構わない」と言った以上、安易に手を引っ込める訳にもいかず、オルキデアはただただ耐えるしかなかった。
「心が温かいか……。部下たちから『情がない』、『冷たい』、『冷酷』って言われて怖がられているんだぞ。俺は」
オルキデア自身は何を言われても全く気にしていないが、部下たちが影でそう話しているのを聞いたことがある。
厳しく叱責したことや辛い仕事を頼んだこともあったので、そう思われても仕方がないだろう。
「そんなの見た目だけじゃないですか。すっごく良い人ですよ!」
「そうなのか?」
「そうですよ。私は気づいていました。一見冷たそうに見えても、優しくて、面倒見が良くて、細やかな気遣いが出来て、甘えても許してくれて……」
アリーシャは頬を赤く染めると、「そんな貴方だからこそ……」と小さく呟いた。
「そんな貴方だからこそ、私は好きになったんです。他の誰でもない、貴方を……オルキデア様を……」
「アリーシャ……」
雪深い地に陽光が差し込んだ様に、胸の中が温かくなっていく。
天にも昇る心地とは、このような気持ちを指すのだろうか。
アリーシャの華奢な身体を抱き寄せて、顔を近づけた時、下からピーッと笛の音が聞こえてきたのだった。
「なんでしょう? この笛は……」
「パレードの合図だ」
下を見ると、通りの人垣が二つに割れていた。
先程まで、中央の道路まではみ出ていた人々は、警察や警備を担当する軍の指示で、車が通れるように道路を開けた。
パレードの見物客たちは押し合いになりながら、ずらりと沿道に並んだのだった。
「あんなに人がいっぱいいたら、後ろの人はパレードが見れないですよね」
「その為のこの場所だ」
アリーシャの言う通り、沿道の後ろに立った人たちは背伸びをするか、近くの階段に上って少しでもパレードを見ようとしていた。遠くからは「どけよ!」や「痛い!」という声や、迷子になった子供がいるのか「お母さ~ん」と泣き出す子供の声が聞こえてきた。
あんな人混みの中にアリーシャといたら、それこそ離れ離れになって迷子になっていただろう。
やはり、屋上に登って正解だった。
「はい」
輝くような菫色の瞳に見つめられて、オルキデアは微笑を浮かべる。
柔肌の両頬をそっと撫でると、親指と人差し指でそれぞれ引っ張ったのだった。
「……あにょ」
「なんだ?」
頬を引っ張られているからか上手く呂律が回っていなかったが、それでもアリーシャは話し続けた。
「なにちているんでつか?」
「触り心地がいいから引っ張っている」
指で軽く揉んでから指を離すと、アリーシャは「もう!」と口を尖らせたのだった。
「オルキデア様ばっかりズルイです!」
「じゃあ、お前はどうしたい?」
「どうしたいと、急に言われても……」
うーんと悩んでいたアリーシャだったが、やがて何かを閃いたのか、菫色の瞳を見開いて顔を輝かせた。
「あの、両手をお借りしてもいいですか?」
「それくらい構わないが……」
オルキデアが両手を差し出すと、アリーシャは先程と同じ様に、手袋をつけた両手で挟む。
そうして顔に近づけると、「ハァ~ッ」と息を吐いたのだった。
「何をしているんだ」
「オルキデア様の手を温めているんです。いっつも触れられる度に、冷たいと思っていたので」
「そこまで冷たかったか……?」
「……多少は。で、でも、手が冷たいというのは反対に、心が温かい証拠だって、聞いたことがあるので!」
アリーシャが話す度に、吐息が手にかかってむず痒い。
「構わない」と言った以上、安易に手を引っ込める訳にもいかず、オルキデアはただただ耐えるしかなかった。
「心が温かいか……。部下たちから『情がない』、『冷たい』、『冷酷』って言われて怖がられているんだぞ。俺は」
オルキデア自身は何を言われても全く気にしていないが、部下たちが影でそう話しているのを聞いたことがある。
厳しく叱責したことや辛い仕事を頼んだこともあったので、そう思われても仕方がないだろう。
「そんなの見た目だけじゃないですか。すっごく良い人ですよ!」
「そうなのか?」
「そうですよ。私は気づいていました。一見冷たそうに見えても、優しくて、面倒見が良くて、細やかな気遣いが出来て、甘えても許してくれて……」
アリーシャは頬を赤く染めると、「そんな貴方だからこそ……」と小さく呟いた。
「そんな貴方だからこそ、私は好きになったんです。他の誰でもない、貴方を……オルキデア様を……」
「アリーシャ……」
雪深い地に陽光が差し込んだ様に、胸の中が温かくなっていく。
天にも昇る心地とは、このような気持ちを指すのだろうか。
アリーシャの華奢な身体を抱き寄せて、顔を近づけた時、下からピーッと笛の音が聞こえてきたのだった。
「なんでしょう? この笛は……」
「パレードの合図だ」
下を見ると、通りの人垣が二つに割れていた。
先程まで、中央の道路まではみ出ていた人々は、警察や警備を担当する軍の指示で、車が通れるように道路を開けた。
パレードの見物客たちは押し合いになりながら、ずらりと沿道に並んだのだった。
「あんなに人がいっぱいいたら、後ろの人はパレードが見れないですよね」
「その為のこの場所だ」
アリーシャの言う通り、沿道の後ろに立った人たちは背伸びをするか、近くの階段に上って少しでもパレードを見ようとしていた。遠くからは「どけよ!」や「痛い!」という声や、迷子になった子供がいるのか「お母さ~ん」と泣き出す子供の声が聞こえてきた。
あんな人混みの中にアリーシャといたら、それこそ離れ離れになって迷子になっていただろう。
やはり、屋上に登って正解だった。