アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ(修正中)
「軍が縮小されたら、皆さん生活に困りそうです……」
「クシャースラの様に、実家が軍関係以外ならいいんだがな……」

 そんな話をしながら、百貨店が協賛している出店を見ていると、とあるテント型の出店の前でアリーシャが足を止める。

「珍しい小物がたくさんありますね!」
「おっ。奥様。お目が高い」

 立ち止まったアリーシャに、出店の主人である年配の男性が声を掛けてくる。

「これらは、全て東にある国の民芸品だよ。ハルモニア経由で仕入れたものばかりだ」

 百貨店のロゴマークが入ったテーブルクロスの上には、変わった形の団扇や髪を束ねる櫛、花や鳥などが描かれた紙を千切って作ったノート、透けるような金の紙を貼り付けた手鏡などが並んでいたのだった。

 テーブルに隙間なく並べられた小物を眺めていると、アリーシャが布が巻かれた筒状のものを手に取る。

「これは、何ですか?」
「カレイドスコープです。東の国では万華鏡と呼ばれているものですよ」
「マンゲキョウ?」

 アリーシャが手に持つ万華鏡には、白兎が書かれた青地の布が巻かれていた。片方の先は覗き穴の様に透明なシートが貼られており、反対側は白い蓋で塞がれていた。
 万華鏡を左右に振る度に、筒の中からカシャカシャと音が聞こえていたのだった。

「その透明なシートが貼られた穴から、筒の中を覗いて下さい」
「こうですか……? わぁ! キラキラ光っています!」
「中に鏡が三枚入っていて、鏡の内側に入っているビーズや色ガラスを反射させているんです。万華鏡を回すと、中のビーズや色ガラスが動くので、また変わりますよ」

 アリーシャが「回す……?」と戸惑っているようだったので、オルキデアはアリーシャが覗いている万華鏡の筒を回してやる。

「本当ですね! 色が変わりました!」

 アリーシャは万華鏡の中を覗いた状態で、興奮気味に話したのだった。

「オルキデア様も見ますか?」
「いや、俺はいい……。万華鏡は気に入ったか?」
「はい! キラキラして、宝石みたいに綺麗で……。回す度に色や模様が変わるので、飽きずにずっと見ていられます!」
「そうか……これはいくらだ?」

 店主から値段を聞くと、財布を取り出す。

「あの……」
「気に入ったんだろう? せっかくだから、買おう」
「でも、悪いですし……」

 オルキデアが財布を持つ手を引いて、首を振るアリーシャに微笑を浮かべる。

「さほど高いものでもない。買えばいつでも見られるだろう」

 店主の示した値段は、子供のお小遣いでも買えそうな金額であった。
 万華鏡の代金を支払い、簡単にラッピングをしてもらうと、アリーシャに手渡した。

「ありがとうございます……」

 恐縮しながらも両手で受け取ったアリーシャだったが、頬を染めて、小さく微笑を浮かべていたのだった。

 その後、他の出店を見て回っていると、二人を呼んでいる声が聞こえてきた。

「オーキッド様、アリーシャさん!」

 辺りを探していると、遠くの出店で二人に向かって大きく手を振っている稲穂の様な黄金色が見えた。
 人を掻き分けて出店に近づくと、花屋のテントの内側にセシリアが居たのだった。

「セシリアさん、こんにちは」
「アリーシャさん。こんにちは。お祭りは楽しんでいますか?」
「はい! セシリアさんは……?」
「私は花屋の店番です」

 先日、花屋でも見かけた若草色のエプロンを身につけ、白手袋をはめたセシリアは、すかさずアリーシャの手元に気づいたようだった。
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