アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ(修正中)
「確かに小遣いは渡したが……。ただ、どこか寂しい気もするな。例えるなら、ずっと縋ってきた我が子が独り立ちしてしまったような……。そんな気持ちだ」
「そうなんですか?」
「オーキッド様。アリーシャさんを子供だと思っていたんですか?」
「そんなことはない。我が子のように愛おしいという意味だ」

 セシリアの訝しむような目に、苦笑していると「ラナンキュラス少将!」と声を掛けられる。

「お久しぶりです!」

 私服姿ではあるが、直立不動の姿勢で浅く頭を下げる若者からは、軍人らしさが滲み出ていた。

「君は、確か……。南部基地に配属になった……」
「はい。ライリー中佐であります」
「思い出した。新兵の頃、俺の部隊に所属していたな。しばらく会わない間に、すっかり軍人らしくなったな」
「新兵の頃は大変お世話になりました。ラナンキュラス少将は、変わりがないようで安心しました」
「いつ王都に?」
「数日前から休暇で王都に戻っております。王都に残した妻が身重の為、しばらくはこっちにいるつもりです」
「第一子……は、まだ王都に所属している時に生まれたと聞いたな。ということは、第二子か?」

 オルキデアの問いに、ライリーは深く頷いたのだった。

「おっしゃる通りです。妻は第二子を身籠もっております。今度は男だと嬉しいのですが……」
「まだどっちかわからないのか?」
「妻と相談して、今回は生まれるまで楽しみにしようかと」

 黒髪を短く刈り上げたライリーは、数年前のまだ新兵だった頃、オルキデアの部隊に所属していたことがある。
 当時から部下に「冷たい」、「情がない」と恐れられていたオルキデアだったが、ライリーはアルフェラッツやラカイユの様に、数少ない普通に接してくれる部下であった。

 ラカイユと士官学校時代の同期という事もあり、将来的には二人共々、オルキデアの直属の部下に任命しようと思っていたが、ラカイユより先に昇進したライリーは、南部基地への転属を命じられてしまった。

 ライリー自身はすぐに戻って来るつもりで、生まれたばかりの第一子である娘と、幼馴染だった妻を王都に置いていったようだが、転属先の南部基地で、彼を引き抜いた上官に気に入られてしまったそうだ。
 なかなか王都に戻れないまま、階級だけがどんどん上がってしまい、今に至るらしい。

「無事に生まれるように祈ろう」
「ありがとうございます。そちらの方々は?」

 ライリーはオルキデアの傍らの女性陣を示す。

「すっかり話し込んでいて、紹介がまだだったな。
 こっちは俺の妻のアリーシャだ。先日、籍を入れたばかりでな。
 出店にいるのは、オウェングス少将の奥方のセシリア。
 オウェングス少将は覚えているか? 俺の親友で、何度か顔を合わせていたかと思うが」
「覚えております。時折、慰問に来られる第三王子の護衛として、南部基地に来ておりますので」

 ライリーに笑みを向けられて、すかさずセシリアが一礼する。

「セシリア・コーンウォール・オウェングスと申します。主人のクシャースラがお世話になっております」
「とんでもございません。イシス・ライリーと申します。オウェングス少将には新兵の頃からお世話になっております」

 次いで、ライリーから視線を向けられたアリーシャは、帽子を取ると緊張気味に挨拶した。
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