アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ(修正中)
「は、初めまして。主人のオルキデアさ……オルキデアがお世話になっております。アリーシャ・ラナンキュラスと申します」
「アリーシャ様ですね。ラナンキュラス少将には新兵の頃より、ご指導ご鞭撻頂き、大変お世話になっております。
 しばらくは王都におりますので、妻子共々よろしくお願いします」
「ライリー、アリーシャは王都に来たばかりなんだ。何かあれば、よろしく頼む」
「そうでしたか。私こそ、ご結婚されているとは知らず、申し訳ありません。後ほど、お祝いの品を届けます」
「気にしなくていい。祭りには一人で来ているのか?」
「娘を連れて来ております。元気があり余っているので、外で遊んで疲れさせて来いと妻が」

「隣の出店を見ていて……」と、言いかけたライリーが止まる。
 それらしき娘の姿が、なくなっていたのだった。

「あれ? どこに行った?」

 ライリーが辺りを探していると、丁度、テーブルを挟んでセシリアの向かい辺りを、六歳くらいの娘が覗き込んでいた。

「おはな、たくさん!」
「ローラ。勝手に触るな!」

 テーブルに並べていた植木鉢の花に触れようとする娘を、ライリーが制止する。

「すみません……」
「いえいえ。よければご覧になって下さい」

 ローラと呼ばれた娘は、ライリーに抱かれて、テーブルに並べられた花に目を輝かせていた。

「パパ。おはな、ほしい」
「ダメだ。ママは身体を動かすのが辛いと言っていただろう。花を買っても世話が出来ないから、すぐに枯らせてしまう」
「やだあ。おはな、ほしいもん!」

 うわぁと泣きだすローラにライリーがあたふたしていると、「よければ」とセシリアがテーブルの一角を勧めた。

「こっちの花は造花やプリザーブドフラワーで作った花束なんです。これなら手入れが要らないので、世話の心配もないかと。
 身重とのことでしたので、身体も辛いでしょう。造花やプリザーブドフラワーを見れば、多少は心も安らぐかと思います」
「ありがとうございます。オウェングス夫人。どうする。ローラ?」

 セシリアに勧められた一角に行くと、ライリーは娘に尋ねる。

「う~んとね……。これ!」
「バラの一輪挿しか。何色がいい?」
「ピンク!」

 ライリーはプリザーブドフラワーで出来たピンクのバラの一輪挿しを指すと、「これをお願いします」とセシリアに声を掛けた。

「ありがとうございます」

 セシリアは代金を受け取ると、ローラに一輪挿しを渡したのだった。

「ありがとう」
「はい。ありがとうございます。お礼が言えて、偉いですね」

 セシリアに褒められて、ローラは歯を見せて嬉しそうに笑ったのだった。

「良かったな。ローラ」
「うん!」

 和やかな空気が流れる中、不意にライリーは真面目な顔になる。

「ラナンキュラス少将。実は噂で聞いたのですが……」

 伺うようにアリーシャたちを見ると、気を利かせたセシリアが微笑を浮かべて頷く。

「オーキッド様。ライリー様。ローラちゃんは私とアリーシャさんで見ているので、二人でゆっくり話して下さい」
「いいですか? でも……」
「私は気にしていませんわ。ね、アリーシャさん?」

 それまで、何も言わずに黙っていたアリーシャが「そうですね」と頷いたのだった。

「私たちが見ていますので、二人はゆっくりお話し下さい」
「ありがとうございます。それでは、お言葉に甘えて、少しお願いしてもいいですか?」
「セシリア、アリーシャを頼んでもいいか? アリーシャ、お前たちはセシリアのところで待っていてくれるか?」
「分かりました!」

 ピンクのバラを持ってご機嫌なローラを二人に任せて、二人は出店から離れた。
 人混みを抜けて、休憩スペースの空いているテーブルを見つけると、ライリーに椅子を勧めたのだった。
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