アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ(修正中)
「こんな時にすみません。先日、軍部に顔を出した際に、気になる話を聞きまして。近々、ご連絡をしようかと思っていました」
「構わん。一体、何の話だ?」
「その日に、間諜の疑いで収監された者なんですが……」

 ライリーは人目を気にしながら、こっそりとオルキデアに話してくれた。
 話しを聞き終えたオルキデアは「そうか」と呟いたのだった。

「……やはり、そうなったか。こうなると覚悟していたとはいえ、複雑な気持ちになるな」

 胸の中に重石が乗ったように、心身が重くなったような気がした。
 こうなるだろうと思っていたので、さほど驚きはしなかったが、言葉にし難い、苦いものが、胸の中に広がったのだった。

「すみません。こんな時に……」
「いや。まだ誰から聞いてなかったから助かる」

 恐らく、祭りの用意で、クシャースラも、部下たちも、それどころではなかったのだろう。

「俺も休暇を取っていたが、そろそろ終わるからな。近々、復帰する予定だった。それまでには顔を出そう」

 それを合図に立ち上がって、二人揃って休憩スペースを出る。
 アリーシャたちが待つ、セシリアの出店まで戻って来ると、出店の内側で買ったばかりの花を手にローラが嬉しそうに話していた。

「それでね。今日もパパ、なかなかおきてくれなくて、ママにおこられてね」
「そうなんですね」
「あらあら。お父さん、寝坊したの?」
「ママが『コラッ!』っていうと、パパが『はい!』っておきたの……」

 出店の内側で椅子に座ったアリーシャの膝の上で、ローラが手を振っていた。
 聞き役に徹しながら、セシリアは店番もこなしていたのだった。

「セシリア、アリーシャ。戻った」
「お帰りなさい。お話しはもういいんですか?」
「ああ。アリーシャをありがとう」
「いえいえ。私も楽しい時間を過ごせたので」

 隣の出店との狭い隙間から、ローラを連れてアリーシャが出て来る。

「ありがとうございました。オウェングス夫人。ラナンキュラス夫人」

 ローラの手を握ると、ライリーが頭を下げる。

「とんでもありません。楽しい時間を過ごせました」
「ローラちゃんからご両親のお話を聞けて、楽しかったです」
「あははは……。恥ずかしい話もありましたよね。すみません……」
「いえいえ。普段は下町で花屋を開いています。ローラちゃんを連れて遊びに来て下さい」
「ありがとうございます。子供が生まれて落ち着いたら、今度は妻も連れて行きます」
「お待ちしております」

 ライリー親子を見送ると、「そろそろ行くか」とアリーシャに声を掛ける。

「邪魔したな。セシリア」
「いえいえ。お祭り、楽しんで下さいね」
「ありがとうございました。セシリアさん」

 手を振るセシリアに見送られて、二人は花屋の出店を後にする。

「アリーシャ、手を」
「は、はい!」

 人混みに流されないように、アリーシャと手を繋ぐ。
 よく見ると、アリーシャの手には赤いバラの一輪挿しが握られていた。
 待っている間に買ったのだろうか。

「オルキデア様。噴水の辺りに行ってもいいですか?」
「噴水? あの辺りは休憩スペースだから、何も店は出ていなかったと思うが……」
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