アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ(修正中)
「少将は……。あれ? もしかして、貴女はアリーシャ嬢ですか?」
兵士はシュタルクヘルト語で言い直すと、手に持っていた手紙や三つ折りにされた新聞紙を渡してくる。
「ラナンキュラス少将の部下であるラカイユです。少将の指示で王都に残っていました。アリーシャ嬢とお会いするのは初めてですね」
アリーシャはこくりと頷く。
「あの、これは……?」
「本日届いた郵便物です。少将にお渡し下さい」
それだけ告げると、「では、私はこれで」と、ラカイユは執務室から出て行ったのだった。
「とりあえず、机の上に置かせてもらおう」
アリーシャは手紙の束と新聞紙を、執務机の上にそっと置く。
すると、その中にあったシュタルクヘルト語の新聞が目に留まったのだった。
「これって……」
アリーシャは三つ折りにされたシュタルクヘルト語の新聞を広げる。
どうやら、誰かの葬儀について、新聞の一面を使って書かれたようだった。
新聞の一面を使う程の人物が亡くなったのだ。どんな大物なのだろうか。
(まだ、オルキデア様は戻って来てないよね……)
アリーシャは一度執務室の扉を見つめると、再び新聞に目を落とした。
「これって、私……?」
新聞にはアリーシャによく似た女性の写真が載っていた。
どうやら、軍事医療施設に慰問に行っていた元王族の血を引くこの女性が、ペルフェクト軍の襲撃に遭って、行方不明になったようだ。
その後、シュタルクヘルト軍の捜索隊は元王族を発見出来ず、状況から死亡と判断したようだった。
その、元王族の名前はーー。
「アリサ・リリーベル・シュタルクヘルト」
アリーシャがその名を呟くと、頭の中で次々と幾つもの光景が見えてくる。
頭を押さえると、目を大きく見開く。
「あっ……あっ……」
幼い頃を過ごした娼婦街、昼と夜では人が変わったようになる母親、冷たい別館、冷め切った父親と兄弟たち、無視をする使用人たち。
そうして、元王族を象徴する白色の軍服を着て、リネン室で泣くアリーシャとーー揺れる視界と激しい爆音。
「思い出した……」
パサリと音を立てて、新聞が床に落ちる。
新聞の中のアリサ・リリーベル・シュタルクヘルトのーー私の遺影に皺が寄る。
オルキデアに名前を呼ばれる度に、自分の中で何かが思い出せそうで、思い出せなかった。
けれども、今、ようやく全てを思い出した。
私はーー。
「私の本当の名前は、アリサ・リリーベル・シュタルクヘルト。
シュタルクヘルト元王家の直系の血を引く九番目の子供……」
「ようやく、思い出したのか」
声が聞こえてきて顔を上げると、いつの間に戻って来たのか、両腕を組んだオルキデアが扉に寄り掛かっていたのだった。
「オルキデア様……」
気づいていたんですね。という言葉は、出てこなかった。
オルキデアの黒が強い濃い紫色の瞳が、歪んでいるように見えたからだった。
「……これで、終わりだな」
何がとは、アリーシャは聞かなかった。
アリーシャも分かっていた。
ーーこの奇妙で、けれども優しい時間が、終わりを告げたのだと。
アリーシャはそっと目を伏せたのだった。
兵士はシュタルクヘルト語で言い直すと、手に持っていた手紙や三つ折りにされた新聞紙を渡してくる。
「ラナンキュラス少将の部下であるラカイユです。少将の指示で王都に残っていました。アリーシャ嬢とお会いするのは初めてですね」
アリーシャはこくりと頷く。
「あの、これは……?」
「本日届いた郵便物です。少将にお渡し下さい」
それだけ告げると、「では、私はこれで」と、ラカイユは執務室から出て行ったのだった。
「とりあえず、机の上に置かせてもらおう」
アリーシャは手紙の束と新聞紙を、執務机の上にそっと置く。
すると、その中にあったシュタルクヘルト語の新聞が目に留まったのだった。
「これって……」
アリーシャは三つ折りにされたシュタルクヘルト語の新聞を広げる。
どうやら、誰かの葬儀について、新聞の一面を使って書かれたようだった。
新聞の一面を使う程の人物が亡くなったのだ。どんな大物なのだろうか。
(まだ、オルキデア様は戻って来てないよね……)
アリーシャは一度執務室の扉を見つめると、再び新聞に目を落とした。
「これって、私……?」
新聞にはアリーシャによく似た女性の写真が載っていた。
どうやら、軍事医療施設に慰問に行っていた元王族の血を引くこの女性が、ペルフェクト軍の襲撃に遭って、行方不明になったようだ。
その後、シュタルクヘルト軍の捜索隊は元王族を発見出来ず、状況から死亡と判断したようだった。
その、元王族の名前はーー。
「アリサ・リリーベル・シュタルクヘルト」
アリーシャがその名を呟くと、頭の中で次々と幾つもの光景が見えてくる。
頭を押さえると、目を大きく見開く。
「あっ……あっ……」
幼い頃を過ごした娼婦街、昼と夜では人が変わったようになる母親、冷たい別館、冷め切った父親と兄弟たち、無視をする使用人たち。
そうして、元王族を象徴する白色の軍服を着て、リネン室で泣くアリーシャとーー揺れる視界と激しい爆音。
「思い出した……」
パサリと音を立てて、新聞が床に落ちる。
新聞の中のアリサ・リリーベル・シュタルクヘルトのーー私の遺影に皺が寄る。
オルキデアに名前を呼ばれる度に、自分の中で何かが思い出せそうで、思い出せなかった。
けれども、今、ようやく全てを思い出した。
私はーー。
「私の本当の名前は、アリサ・リリーベル・シュタルクヘルト。
シュタルクヘルト元王家の直系の血を引く九番目の子供……」
「ようやく、思い出したのか」
声が聞こえてきて顔を上げると、いつの間に戻って来たのか、両腕を組んだオルキデアが扉に寄り掛かっていたのだった。
「オルキデア様……」
気づいていたんですね。という言葉は、出てこなかった。
オルキデアの黒が強い濃い紫色の瞳が、歪んでいるように見えたからだった。
「……これで、終わりだな」
何がとは、アリーシャは聞かなかった。
アリーシャも分かっていた。
ーーこの奇妙で、けれども優しい時間が、終わりを告げたのだと。
アリーシャはそっと目を伏せたのだった。