アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ(修正中)
この頃になると、アリサの兄たちは父の仕事の手伝いをするか、軍人になっていた。ーー中には戦死してしまった兄もいるが。
姉たちも皆、嫁いでしまい、シュタルクヘルト家を出て行ってしまった。
残っているのは、アリサとアリサより下の弟妹たちであった。
最初に慰問の話が行ったのは、アリサのすぐ下の妹であった。
妹は既に婚約が決まっており、妹の母だけではなく、妹自身も危険な地に行きたがらなかった。
それは、他の弟妹とその母親たちの誰もが同じ意見であった。
そこで、ようやくアリサに話が回ってきたが、事情を聞かされた時に気付いた。
自分に拒否権は無いのだと。
ここでアリサが拒否をしても、また一周回って、アリサの元に話がくるだけだろう。
それなら、最初に行くと言った方がいい。
アリサは自ら名乗り出る形で、慰問への参加を表明したのだった。
「慰問から帰ったら、父は私を褒めてくれる。私もシュタルクヘルト家の一員として正式に認められて、あちこちの行事に参加して、シュタルクヘルトの国中だけじゃなくて、国外にも行けるって、そう思っていました。……慰問に出発したばかりの頃は」
父からは何も言われなかったが、慰問用の白色の軍服ーー昔、王族が式典時に着ていたと言われている。が届いた時、ようやくシュタルクヘルト家の一員になれたようで嬉しかった。
ーー慰問でシュタルクヘルト家の為になることをしたら、父は存在を認めてくれるかもしれない。
そんな淡い期待と共に、アリサは護衛の兵や、父が体裁を保つ為だけにつけたメイドと共に、軍事医療施設の慰問に向かったのだった。
「でも、実際に軍事医療施設に行ったら、想像以上でした。重傷者だけじゃなくて、もう助からないくらいの酷い怪我を負っている方もいて。
来る日も、来る日も、怪我人は増えるばかりで……毎日の様に、誰かが亡くなっていました」
その時の光景を思い出したのか、アリーシャは顔を歪ませる。
「ペルフェクトの兵もいたらしいんですが、私と入れ違いで、どこかに移送されたそうです。さすがに移送先までは教えてもらえなかったんですが……」
「やはり、そうだったか……」
どうやら、敵側に襲撃が予想されていたらしい。
いや、もしかしたら、内通者が密告したのかもしれない。
書きかけの報告書に追加せねばならない、とオルキデアは考えたのだった。
「慰問と言いながらも、傷つき、苦しむ兵たちを放っておけず、私も自ら手伝いを申し出ました。医師や看護師の数も不足していたので、せめて雑用だけでもと思って」
「まあ、あまり意味はありませんでしたが」と、アリーシャは肩を落とす。
「誰かが亡くなる度に、私に医学の知識があったら助けられたんじゃないか、救えたんじゃないかって、考えてしまって……」
「そんなのは、ただの結果論に過ぎん。本人が生きたいと、助かりたいと思わない限り、君がそう考えても意味がない」
オルキデア自身も士官学校の同期や部下、仲間が死ぬ度にそう思った。
自分が強ければ、助けに行けたのではないか、生きていたのではないかと。
けれども、それは彼らが選んだ結果であり、オルキデアの力だけで、どうにか出来る問題ではないと気づいたのだった。
「そうかもしれませんが、でも……」
「俺たちは今を生きているんだ。過去の話をしたところで、死者は生き返らない。
そんな俺たちに出来るのは、明日も生きる為に、明日の話をすることだ」
そこで、オルキデアは一度言葉を切ると、大きく息を吸った。
「だからこそ、教えてくれ、アリーシャ。
君の明日の為にも、襲撃の日、何故、君だけ助かったのかを」
姉たちも皆、嫁いでしまい、シュタルクヘルト家を出て行ってしまった。
残っているのは、アリサとアリサより下の弟妹たちであった。
最初に慰問の話が行ったのは、アリサのすぐ下の妹であった。
妹は既に婚約が決まっており、妹の母だけではなく、妹自身も危険な地に行きたがらなかった。
それは、他の弟妹とその母親たちの誰もが同じ意見であった。
そこで、ようやくアリサに話が回ってきたが、事情を聞かされた時に気付いた。
自分に拒否権は無いのだと。
ここでアリサが拒否をしても、また一周回って、アリサの元に話がくるだけだろう。
それなら、最初に行くと言った方がいい。
アリサは自ら名乗り出る形で、慰問への参加を表明したのだった。
「慰問から帰ったら、父は私を褒めてくれる。私もシュタルクヘルト家の一員として正式に認められて、あちこちの行事に参加して、シュタルクヘルトの国中だけじゃなくて、国外にも行けるって、そう思っていました。……慰問に出発したばかりの頃は」
父からは何も言われなかったが、慰問用の白色の軍服ーー昔、王族が式典時に着ていたと言われている。が届いた時、ようやくシュタルクヘルト家の一員になれたようで嬉しかった。
ーー慰問でシュタルクヘルト家の為になることをしたら、父は存在を認めてくれるかもしれない。
そんな淡い期待と共に、アリサは護衛の兵や、父が体裁を保つ為だけにつけたメイドと共に、軍事医療施設の慰問に向かったのだった。
「でも、実際に軍事医療施設に行ったら、想像以上でした。重傷者だけじゃなくて、もう助からないくらいの酷い怪我を負っている方もいて。
来る日も、来る日も、怪我人は増えるばかりで……毎日の様に、誰かが亡くなっていました」
その時の光景を思い出したのか、アリーシャは顔を歪ませる。
「ペルフェクトの兵もいたらしいんですが、私と入れ違いで、どこかに移送されたそうです。さすがに移送先までは教えてもらえなかったんですが……」
「やはり、そうだったか……」
どうやら、敵側に襲撃が予想されていたらしい。
いや、もしかしたら、内通者が密告したのかもしれない。
書きかけの報告書に追加せねばならない、とオルキデアは考えたのだった。
「慰問と言いながらも、傷つき、苦しむ兵たちを放っておけず、私も自ら手伝いを申し出ました。医師や看護師の数も不足していたので、せめて雑用だけでもと思って」
「まあ、あまり意味はありませんでしたが」と、アリーシャは肩を落とす。
「誰かが亡くなる度に、私に医学の知識があったら助けられたんじゃないか、救えたんじゃないかって、考えてしまって……」
「そんなのは、ただの結果論に過ぎん。本人が生きたいと、助かりたいと思わない限り、君がそう考えても意味がない」
オルキデア自身も士官学校の同期や部下、仲間が死ぬ度にそう思った。
自分が強ければ、助けに行けたのではないか、生きていたのではないかと。
けれども、それは彼らが選んだ結果であり、オルキデアの力だけで、どうにか出来る問題ではないと気づいたのだった。
「そうかもしれませんが、でも……」
「俺たちは今を生きているんだ。過去の話をしたところで、死者は生き返らない。
そんな俺たちに出来るのは、明日も生きる為に、明日の話をすることだ」
そこで、オルキデアは一度言葉を切ると、大きく息を吸った。
「だからこそ、教えてくれ、アリーシャ。
君の明日の為にも、襲撃の日、何故、君だけ助かったのかを」