アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ(修正中)
「はっ……?」

 オルキデアは目を大きく見開いて固まる。

 ーー今、アリーシャは何と言った?
 
 オルキデアを「好き」だと言った。
 敵国の軍人であるオルキデアの事を。

 オルキデアの反応から、アリーシャも自分が勢いのまま何を言ったのか気づいたのだろう。
 ハッとした顔になると、顔を赤面して慌てたのだった。

「ち、違うんです!! いや、違う訳ではないんですが!! その……オルキデア様の事は、好きなんですが、それは安心できる場所として、と言いますか。信頼できる人として? いえ、友達として……? ううん。友達じゃなくて、その……」

 目尻に涙を溜めて、今にも泣きそうな顔で慌てるアリーシャの様子がおかしくて、オルキデアはとうとう吹き出した。
 声を上げて、笑い出したのだった。

「そうか。わかった」
「な、何を……?」
 耳まで真っ赤にするアリーシャに近づくと、その身体を腕の中に抱く。

「お、オルキデア様……」
「心配していたんだ。敵に囲まれた環境で、不安を感じていないかと。だが、その様子なら大丈夫なようだな」

 オルキデアの元を「安心できる場所」と言ったのだ。
 慣れない環境でストレスを感じていないかと心配していたが、どうやら杞憂だったようだ。

(それどころか、寛いでさえいるな)
 以前、二人きりの時は楽にしていいと言った。
 それでも敵であるオルキデアに本心を語るものだろうか。
 捕虜としての緊張感が足りない気もするが……。
 それでも、記憶も、味方も、心を許せる同性もいない状況下で、寛ぐ余裕があるのだ。
 ーーこれなら、もう心残りはない。

 アリーシャを抱きしめる手に力が入っていたのだろう。
 腕の中から、「あの……」とか細い声が聞こえてきたのだった。

「オルキデア様もそうやって笑って、女性を抱きしめるんですね……」
「そうらしいな。俺自身も始めて知った。これまで、こうやって笑って、誰かを抱きしめた事は無いんだ」

 これまで、オルキデアは特定の女性と付き合った事や、愛を囁いた事はない。
 ただ、オルキデアの容姿は目立つようで、戦勝パーティーや、誰かのパーティーのお招きに預かって華やかな場所に行くと、女性から近寄って来てーー自ら抱かれに来たのだった。

 オルキデア自身もその時の気分次第で抱いたり、抱かなかったり、と夜を共に過ごした。
 気持ちに応えた相手でも、一夜限りしか関係を持たず、それ以降は相手が何を言ってきても、更なる親密な関係を求めてきても、ずっと無視をしてきたのだった。

 そんなオルキデアを、妻帯者である親友は「女遊びと酒はほどほどにして、早く良い女性を見つけて結婚しろ」と眉を顰めて忠告していた。
 どうしても、オルキデアには結婚や恋人を持つ気にはなれなかった。
 恐らく、両親の所為だろうがーー。

「それなら、どうして私を抱きしめてくれるんですか?」
「……泣いているからだろうな。泣いている女の慰め方を俺は知らないんだ」

 本当はオルキデア自身も、どうしてアリーシャを抱きしめたのかわからない。
 もしかしたら、「安心できる場所」と言われたのが嬉しくて、身体が勝手に動いてしまったのかもしれない。

「も、もう泣いてないですよ! 大丈夫です。ほら!」

 自らの手で目を擦るアリーシャだったが、何度も擦っているからか、目元が赤くなっていた。

「そう何度も目を擦るな。腫れるぞ」
「だ、大丈夫です! 冷やせば!」

 オルキデアを見上げて微笑むアリーシャに口元を緩ませると、一度、強く抱きしめたのだった。

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