アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ(修正中)
仕事が忙しいエラフだったが、まだ幼いオルキデアが寂しがらないように、どんなに遅くなっても、毎晩必ず屋敷に戻って来た。
帰って来れない日は、必ず信頼のおける誰かを側に置いてくれた。
仕事が休みの日は、朝早くからオルキデアの相手をしてくれた。
疲れているはずなのに、あちこちに出掛けて、自然や文化に触れる機会を作ってくれたのだった。
時間が許せば、旅行にも連れて行ってくれた。
王都の郊外にある山や海に行って、身分問わず多くの人と触れ合ったのだった。
知識だけでなく、生きていく上で必要な術や人として大切なものをエラフは教えてくれたのだった。
オルキデアもそんな父の力になりたいと、士官学校に入学した。
エラフと同じ文官ではなく、軍人の道を選んだのは、士官学校の学費の免除制度にあった。
入学時に優秀な成績を収めれば、最初の一年分の学費が免除される。
在学中も、優秀な成績を収めれば、引き続き学費が免除される制度だった。
また、在学中に免除制度を利用出来なくても、軍人になって成果を上げれば、士官学校の学費が返還された。
そうすれば、少しでも家計が苦しかったエラフの力になれると思っだのだ。
実際に、二十代にして数々の功績を挙げたオルキデアは士官学校から学費が返還されたのだった。
軍人としてのオルキデアの原点は、父にあった。
今のオルキデアの根幹は、エラフにあると言っても過言ではないだろう。
「素敵なお父様ですね」
「そうだな」
ふふっと、アリーシャは微笑む。
父を褒められて、オルキデアも誇らしい気持ちになったのだった。
「話を戻そう。昨日、母上が俺の縁談を持ってきてな。俺はまだ結婚するつもりはない」
両親を見ていたからだろうか。
オルキデアは結婚に興味が無かった。
女性が嫌いという訳ではない。ただ単に、結婚や恋人に興味が無かった。
ラナンキュラス家の存続など関係ない。
父のように、一人の女性に縛られて、人生を狂わされるのが嫌だった。
それに、もし恋人や結婚相手が敵の人質や被害に遭った場合、それがオルキデア自身の弱点になりかねない。
ーー弱点を持つということは、弱みを持つという事。
弱くなりたくなければ、極力、弱点を減らすしかない。
以前、クシャースラがセシリアと結婚すると打ち明けた際にこの話をしたところ、「そうかもしれんが、お前なあ……」、と苦笑されてしまった。
それでも、オルキデアは今更、弱点を増やしたくなかった。
父が亡くなった今、オルキデアには家族がいないーー母は論外だ。
今のオルキデアには、家族という弱点が存在しない分、身軽であった。
ーーこれで、何があっても迷いなく死ねる。誰も悲しませずにすむ。
唯一の心残りは、オルキデア亡き後、残されたラナンキュラス家の遺産がティシュトリアの手に渡ってしまう事だが、それは仕方がないと割り切ろう。
割り切れないんだったら、遺言書を用意して、親友夫婦と、父が存命だった頃から世話になっていたコーンウォール家に分けてやっても構わない。
親友夫婦には、散々迷惑をかけた。クシャースラにも、セシリアにも。
父が亡くなった時には、葬儀や諸々の相続手続きで、コーンウォール家にも迷惑をかけた。
彼らなら、良い使い方をしてくれる筈だ。
「今回は断ったが、次も同じ手が使えるかわからない。それでだ。君に提案したい事がある」
「提案ですか……?」
「君がこの国に残れて、俺が結婚しなくてもいい方法だ」
「それは……」
何を言われるのかと、じっと身構えるアリーシャからは、緊張が伝わってくるような気がした。
「なあ、アリーシャ」
オルキデアは息を吸うと、足を組み直す。
そうして、腕を組むと、口元を緩めたのだった。
「俺の妻と恋人、どっちがいい?」
帰って来れない日は、必ず信頼のおける誰かを側に置いてくれた。
仕事が休みの日は、朝早くからオルキデアの相手をしてくれた。
疲れているはずなのに、あちこちに出掛けて、自然や文化に触れる機会を作ってくれたのだった。
時間が許せば、旅行にも連れて行ってくれた。
王都の郊外にある山や海に行って、身分問わず多くの人と触れ合ったのだった。
知識だけでなく、生きていく上で必要な術や人として大切なものをエラフは教えてくれたのだった。
オルキデアもそんな父の力になりたいと、士官学校に入学した。
エラフと同じ文官ではなく、軍人の道を選んだのは、士官学校の学費の免除制度にあった。
入学時に優秀な成績を収めれば、最初の一年分の学費が免除される。
在学中も、優秀な成績を収めれば、引き続き学費が免除される制度だった。
また、在学中に免除制度を利用出来なくても、軍人になって成果を上げれば、士官学校の学費が返還された。
そうすれば、少しでも家計が苦しかったエラフの力になれると思っだのだ。
実際に、二十代にして数々の功績を挙げたオルキデアは士官学校から学費が返還されたのだった。
軍人としてのオルキデアの原点は、父にあった。
今のオルキデアの根幹は、エラフにあると言っても過言ではないだろう。
「素敵なお父様ですね」
「そうだな」
ふふっと、アリーシャは微笑む。
父を褒められて、オルキデアも誇らしい気持ちになったのだった。
「話を戻そう。昨日、母上が俺の縁談を持ってきてな。俺はまだ結婚するつもりはない」
両親を見ていたからだろうか。
オルキデアは結婚に興味が無かった。
女性が嫌いという訳ではない。ただ単に、結婚や恋人に興味が無かった。
ラナンキュラス家の存続など関係ない。
父のように、一人の女性に縛られて、人生を狂わされるのが嫌だった。
それに、もし恋人や結婚相手が敵の人質や被害に遭った場合、それがオルキデア自身の弱点になりかねない。
ーー弱点を持つということは、弱みを持つという事。
弱くなりたくなければ、極力、弱点を減らすしかない。
以前、クシャースラがセシリアと結婚すると打ち明けた際にこの話をしたところ、「そうかもしれんが、お前なあ……」、と苦笑されてしまった。
それでも、オルキデアは今更、弱点を増やしたくなかった。
父が亡くなった今、オルキデアには家族がいないーー母は論外だ。
今のオルキデアには、家族という弱点が存在しない分、身軽であった。
ーーこれで、何があっても迷いなく死ねる。誰も悲しませずにすむ。
唯一の心残りは、オルキデア亡き後、残されたラナンキュラス家の遺産がティシュトリアの手に渡ってしまう事だが、それは仕方がないと割り切ろう。
割り切れないんだったら、遺言書を用意して、親友夫婦と、父が存命だった頃から世話になっていたコーンウォール家に分けてやっても構わない。
親友夫婦には、散々迷惑をかけた。クシャースラにも、セシリアにも。
父が亡くなった時には、葬儀や諸々の相続手続きで、コーンウォール家にも迷惑をかけた。
彼らなら、良い使い方をしてくれる筈だ。
「今回は断ったが、次も同じ手が使えるかわからない。それでだ。君に提案したい事がある」
「提案ですか……?」
「君がこの国に残れて、俺が結婚しなくてもいい方法だ」
「それは……」
何を言われるのかと、じっと身構えるアリーシャからは、緊張が伝わってくるような気がした。
「なあ、アリーシャ」
オルキデアは息を吸うと、足を組み直す。
そうして、腕を組むと、口元を緩めたのだった。
「俺の妻と恋人、どっちがいい?」