アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ(修正中)
移送作戦【準備】
「よぉ! いるか?」
アリーシャと契約結婚を決めてから五日後の夕方。
ノックもなく扉が開けられると、そこには茶封筒を手にしたクシャースラがいたのだった。
「なんだ、クシャースラか」
「なんだ、は無いだろう。仕事を終わらせて、その足で来たというのに」
言われてみれば、クシャースラは軍服姿だった。
今日一日、執務室で書類仕事をしていたオルキデアは軍服の上着を脱いだシャツ姿だったが、クシャースラは外に出たのだろう。
執務室に入ってくるなり、クシャースラはどかっと音を立ててソファーに座った。
その時、執務室に併設する仮眠室ーー最近では自室と化されてしまった、からアリーシャが出てきた。
「クシャースラ様」
「こんばんは。アリーシャ嬢。ご結婚おめでとうございます」
協力を求める都合上、クシャースラにはアリーシャと結婚した話をしている。
始めは祝ってくれたが、結婚した理由を聞くなり、大きなため息を吐かれたのは、オルキデアの記憶に新しい。
「あ、ありがとうございます……! でも、一時的なものですので」
「だそうだ。利害関係が一致したから、結婚しただけにすぎん」
それに、いずれは別れる、とはさすがに言わなかった。
「そうだったな。けど、おれから見たら、充分、二人はお似合いなんだけどな」
オルキデアが向かいに座ると、「あの!」とアリーシャが声を掛けてくる。
「私、食堂に行って、コーヒーを貰ってきますね」
「ありがとうございます。アリーシャ嬢」
「ああ、頼んだ」
「はい!」と執務室から出て行くアリーシャを見送ると、親友は話し出したのだった。
「今日は廊下に誰もいなかったが、今も監視をつけているのか?」
「いや、つけていない。だが、他の兵から守るという意味では、影から見守るように頼んでいる。アリーシャに粗相をする奴がいないとは限らんからな」
結婚してからは、廊下に部下を立たせて、アリーシャを監視させるのを止めた。
結婚した以上、もう逃げ出す心配は無いだろうという考えと、アリーシャに信頼を示す誠意の為だった。
ただ、監視ではなく、他の兵の危険から守るという意味で、アリーシャが執務室を出る際には、影から見守るように頼んでいた。
この時間帯だと、ラカイユだろうか。
何かあれば、すぐに報告が来るだろう。
「やるとしても、貴族どもだろう。平気で連れのメイドや、軍部内の女性秘書らに手を出すのは」
貴族出身の兵士は、自分の身の回りの世話をさせる為、常に使用人やメイドを連れていた。
気に入らないことがあれば憂さ晴らしに使用人に八つ当たりし、好みのメイドがいれば、男としての欲を満たす為に。
そんな馬鹿共は、時には、他の貴族のメイドや、文官付きの女性秘書官にも手を出していた。
そういった事件が、軍部内では日常茶飯事だった。
「そうだな。だが、アリーシャに手を出してみろ。……死んだ方がマシというくらいに痛めつけてやる」
「……すっかり、アリーシャ嬢に惚れ込んでるな」
呆れ顔のクシャースラに、オルキデアは「惚れているわけじゃない」と即座に否定したのだった。
アリーシャと契約結婚を決めてから五日後の夕方。
ノックもなく扉が開けられると、そこには茶封筒を手にしたクシャースラがいたのだった。
「なんだ、クシャースラか」
「なんだ、は無いだろう。仕事を終わらせて、その足で来たというのに」
言われてみれば、クシャースラは軍服姿だった。
今日一日、執務室で書類仕事をしていたオルキデアは軍服の上着を脱いだシャツ姿だったが、クシャースラは外に出たのだろう。
執務室に入ってくるなり、クシャースラはどかっと音を立ててソファーに座った。
その時、執務室に併設する仮眠室ーー最近では自室と化されてしまった、からアリーシャが出てきた。
「クシャースラ様」
「こんばんは。アリーシャ嬢。ご結婚おめでとうございます」
協力を求める都合上、クシャースラにはアリーシャと結婚した話をしている。
始めは祝ってくれたが、結婚した理由を聞くなり、大きなため息を吐かれたのは、オルキデアの記憶に新しい。
「あ、ありがとうございます……! でも、一時的なものですので」
「だそうだ。利害関係が一致したから、結婚しただけにすぎん」
それに、いずれは別れる、とはさすがに言わなかった。
「そうだったな。けど、おれから見たら、充分、二人はお似合いなんだけどな」
オルキデアが向かいに座ると、「あの!」とアリーシャが声を掛けてくる。
「私、食堂に行って、コーヒーを貰ってきますね」
「ありがとうございます。アリーシャ嬢」
「ああ、頼んだ」
「はい!」と執務室から出て行くアリーシャを見送ると、親友は話し出したのだった。
「今日は廊下に誰もいなかったが、今も監視をつけているのか?」
「いや、つけていない。だが、他の兵から守るという意味では、影から見守るように頼んでいる。アリーシャに粗相をする奴がいないとは限らんからな」
結婚してからは、廊下に部下を立たせて、アリーシャを監視させるのを止めた。
結婚した以上、もう逃げ出す心配は無いだろうという考えと、アリーシャに信頼を示す誠意の為だった。
ただ、監視ではなく、他の兵の危険から守るという意味で、アリーシャが執務室を出る際には、影から見守るように頼んでいた。
この時間帯だと、ラカイユだろうか。
何かあれば、すぐに報告が来るだろう。
「やるとしても、貴族どもだろう。平気で連れのメイドや、軍部内の女性秘書らに手を出すのは」
貴族出身の兵士は、自分の身の回りの世話をさせる為、常に使用人やメイドを連れていた。
気に入らないことがあれば憂さ晴らしに使用人に八つ当たりし、好みのメイドがいれば、男としての欲を満たす為に。
そんな馬鹿共は、時には、他の貴族のメイドや、文官付きの女性秘書官にも手を出していた。
そういった事件が、軍部内では日常茶飯事だった。
「そうだな。だが、アリーシャに手を出してみろ。……死んだ方がマシというくらいに痛めつけてやる」
「……すっかり、アリーシャ嬢に惚れ込んでるな」
呆れ顔のクシャースラに、オルキデアは「惚れているわけじゃない」と即座に否定したのだった。