アリサ・リリーベル・シュタルクヘルトは死んだ(修正中)
移送作戦【当日】・上
迎えたアリーシャの移送当日。
演習日だけあって、朝から軍部内はバタバタと慌ただしかった。
予め、今日からの休暇を申請していたオルキデアだったが、軍部内の慌ただしさに早朝から何度も起こされる羽目になったのだった。
それはアリーシャも同じだったようで、仮眠室から出てきた時はオルキデアと同じくらいか、それ以上に眠そうであった。
交互にシャワーを浴びて、朝食を食べ終わる頃にはオルキデアの眠気はすっかり引いたが、まだまだ辛そうなアリーシャにそっと声を掛けたのだった。
「早朝から軍事演習で騒がしかっただろう。クシャースラたちが来るまで少し眠ったらどうだ?」
「大丈夫です。今日のことを考えると、昨晩から緊張して眠れなくて……」
アリーシャは不安そうに顔を俯く。
「ちゃんと上手く出来るか心配で……。何かあったら、どうしようって……」
オルキデアはアリーシャの前に片膝をつくと、膝の上でギュッと組むアリーシャの手に自らの両手を重ねる。
「大丈夫だ」
「オルキデア様……」
ハッとして顔を上げるアリーシャの菫色の瞳にじっと見つめられる。
今日を失敗してしまえば、これまでオルキデアたちが隠してきたものが、全て明るみに出てしまうだろう。
そうなれば、アリーシャと引き離されるだけでは済まない。
良くて牢に繋がれるか、悪ければ死かーー。
「不安になるのもわかる。だが、何も無いようにーー何かあっても対処出来るように、先日、クシャースラと打ち合わせもした」
先日、三人で今日の移送について話し合った後も、オルキデアはクシャースラとメールで打ち合わせを続けていた。
その際に、仮眠室にあるアリーシャの荷物は先に移送先に運んでおいた方がいいとアドバイスされたので、昨日、オルキデアはアリーシャの荷物が入ったカバンを運び出していた。
「君はただ俺に……俺たちについて来るだけでいい」
菫色の瞳が見開かれる。
その瞳の中に、彼女を安心させようと優しげな表情を浮かべる自分が映っていた。
随分と柄にも無いことをやっていると自分でも思う。
これまでなら、こんな歯が浮くような台詞は何があっても口にしなかった。
だが、これも互いの利害関係が一致した契約結婚の為。
先ずはここからアリーシャを移送させなければ何も始まらない。
多少恥ずかしくても、これでアリーシャの不安が消えるなら幾らでもやろう。
「何かあっても、俺たちが君を守る。だから、君は俺について来るだけでいい」
「オルキデア様……」
顔を歪ませて泣きそうな顔になるアリーシャの隣に座ると、そっと肩を抱き寄せる。
「俺を信じてくれるか? アリーシャ」
「はい……。信じてついて行きます」
それから、どれくらいそのままでいただろう。
抱き寄せるアリーシャの温かさを感じながら、うとうとするアリーシャの顔を眺めていると、珍しく待ち人は静かに入って来たのだった。
「ようやく、やって来たか」
「待たせたな。オルキデア、とアリーシャ嬢……?」
執務室に入ってきたクシャースラは、ソファーに並んで座る二人に目を剥いた。
そうして「悪い、邪魔したな」と、小声で謝ったのだった。
「いや。俺は大丈夫だ。……アリーシャ、君は大丈夫か?」
「はい……」
目を覚ましてアリーシャは、クシャースラの姿を見つけて、「おはようございます」と挨拶したのだった。
「おはようございます。それにしても、随分と親密になりましたね。手も繋いで」
「手?」
下を見ると、いつの間にかアリーシャの手を握りしめていたことに気づく。
慌ててオルキデアが手を離すと、「そろそろ入っていいですか?」と廊下から声が聞こえてきたのだった。
演習日だけあって、朝から軍部内はバタバタと慌ただしかった。
予め、今日からの休暇を申請していたオルキデアだったが、軍部内の慌ただしさに早朝から何度も起こされる羽目になったのだった。
それはアリーシャも同じだったようで、仮眠室から出てきた時はオルキデアと同じくらいか、それ以上に眠そうであった。
交互にシャワーを浴びて、朝食を食べ終わる頃にはオルキデアの眠気はすっかり引いたが、まだまだ辛そうなアリーシャにそっと声を掛けたのだった。
「早朝から軍事演習で騒がしかっただろう。クシャースラたちが来るまで少し眠ったらどうだ?」
「大丈夫です。今日のことを考えると、昨晩から緊張して眠れなくて……」
アリーシャは不安そうに顔を俯く。
「ちゃんと上手く出来るか心配で……。何かあったら、どうしようって……」
オルキデアはアリーシャの前に片膝をつくと、膝の上でギュッと組むアリーシャの手に自らの両手を重ねる。
「大丈夫だ」
「オルキデア様……」
ハッとして顔を上げるアリーシャの菫色の瞳にじっと見つめられる。
今日を失敗してしまえば、これまでオルキデアたちが隠してきたものが、全て明るみに出てしまうだろう。
そうなれば、アリーシャと引き離されるだけでは済まない。
良くて牢に繋がれるか、悪ければ死かーー。
「不安になるのもわかる。だが、何も無いようにーー何かあっても対処出来るように、先日、クシャースラと打ち合わせもした」
先日、三人で今日の移送について話し合った後も、オルキデアはクシャースラとメールで打ち合わせを続けていた。
その際に、仮眠室にあるアリーシャの荷物は先に移送先に運んでおいた方がいいとアドバイスされたので、昨日、オルキデアはアリーシャの荷物が入ったカバンを運び出していた。
「君はただ俺に……俺たちについて来るだけでいい」
菫色の瞳が見開かれる。
その瞳の中に、彼女を安心させようと優しげな表情を浮かべる自分が映っていた。
随分と柄にも無いことをやっていると自分でも思う。
これまでなら、こんな歯が浮くような台詞は何があっても口にしなかった。
だが、これも互いの利害関係が一致した契約結婚の為。
先ずはここからアリーシャを移送させなければ何も始まらない。
多少恥ずかしくても、これでアリーシャの不安が消えるなら幾らでもやろう。
「何かあっても、俺たちが君を守る。だから、君は俺について来るだけでいい」
「オルキデア様……」
顔を歪ませて泣きそうな顔になるアリーシャの隣に座ると、そっと肩を抱き寄せる。
「俺を信じてくれるか? アリーシャ」
「はい……。信じてついて行きます」
それから、どれくらいそのままでいただろう。
抱き寄せるアリーシャの温かさを感じながら、うとうとするアリーシャの顔を眺めていると、珍しく待ち人は静かに入って来たのだった。
「ようやく、やって来たか」
「待たせたな。オルキデア、とアリーシャ嬢……?」
執務室に入ってきたクシャースラは、ソファーに並んで座る二人に目を剥いた。
そうして「悪い、邪魔したな」と、小声で謝ったのだった。
「いや。俺は大丈夫だ。……アリーシャ、君は大丈夫か?」
「はい……」
目を覚ましてアリーシャは、クシャースラの姿を見つけて、「おはようございます」と挨拶したのだった。
「おはようございます。それにしても、随分と親密になりましたね。手も繋いで」
「手?」
下を見ると、いつの間にかアリーシャの手を握りしめていたことに気づく。
慌ててオルキデアが手を離すと、「そろそろ入っていいですか?」と廊下から声が聞こえてきたのだった。