泣いてる君に恋した世界で、
もうすっかり夜中。真夜中だ。
デジタル時計は【2:34】。
眠れない。
目を瞑ると嫌な音が聴こえて覚めてしまう。
隣には静かに寝息を立てているうららがいる。そんな彼女が羨ましい。そして愛くるしい。
手を伸ばして頬を撫でてみる。ひんやりとしたそれはじんわりと温かみを保っていてとても柔らかかった。
デートがしたいだなんて一体全体どこで覚えてきたの、ほんとに。
あざとさまで詰め込んできたし。かわいいかよ。
でもあと何年かしたら俺のこと嫌ったり避けられたりするかもしれないんだよな……。
もしかしたらそんな遠い未来の話じゃないかもしれない。あっという間に来てしまうかもしれない。
そう思うとこの貴重な時間さえも愛おしくなる。
今のうちに妹のわがままをたくさん聞いてあげよう。甘えさせよう。羽星に出来ることなら何でもしてあげたい。
その日がくるまでには……――。
目を開いた。
視線の先には暗い空間と木目がぼんやりした天井が見える。
どうやら一瞬眠ってしまったようだ。
俺の脳裏には見てしまった悪夢が未だに、走馬灯のように蘇っている。
嫌なシーンが現れる最中、それらをかき消すかのように現れる儚く弱々しい声音を持つ彼女の姿。
それはまるで精神安定剤かのようで、何故か安らいで、深く眠りにつけた気がする。
……一体彼女は何者なんだろう。
“もう一度、会ってみたい”
なんて思ったのは初めてで少し戸惑う。
まずどこの誰かも分からないんじゃ会える確率なんて無いに等しいだろう。
そう思うと人と出会うってとても貴重だ。
そういうの “一期一会” って言うんだったっけ。
明日なんて一生来なくていいとか思ってるけど、彼女に会うためなら明日だろうが明後日だろうが来てくれても構わない。
あぁ、……またひとつ、目標が出来てしまった。
ため息が出たのは自分の悪い癖に気付いてしまったから。
これは親友の和希を亡くしてからだ。目標を持ち始めるようになってしまったのは。
それでも生きる糧が欲しかったからなんだと思う。だから母さんが死んだって駆けつけた時には絶望しか見えてなかった。
生きる目標が無くなってしまったから。
母のために少しでも安心させたくて、成績は上位にいるし、バイトだってしてるし、誕生日や両親の記念日には花を贈った。
親父の代わりにはなれないけれど、母さんの笑ってる顔は俺も好きだから。せめて笑顔でいて欲しい。そう思い続ける日常が自分の生き甲斐だったんだ。
それももう全て無くなってしまったと思った瞬間本当に消えて無くなりたかった。
多分、心の奥底に眠ってた感情が溢れ出したんだ。思えば思うほど止めどなく強い願望だった。
今となっちゃもう薄れてはいる。 ……気はしている。またいつ蓋が外れるか分からないけれど、暫くは大丈夫だろう。
新たな目標が出来てしまったからな。