泣いてる君に恋した世界で、
桜舞う中初めてみた笑う君

―――4月。


俺らは無事に乗り越え、進級した。高2と小2だ。
時が経つのはあっという間だった。


羽星(うらら)はこの4ヶ月ちょいで結構身長が伸びた。顔立ちも以前よりしっかりして見える。特に今月に入ってから。

きっと新1年生の影響だろう。

家の中では “妹” という立場上、学校では年上の “お姉さん” という新たなポジションにつくわけだ。

そりゃ『しっかりしなきゃ』といった責任感を持ってもおかしくはない。むしろいい事。


でもなぁ……。


最近俺の中に一つ悩み事が出来てしまった。それは、羽星があまりにも逞しくなってしまった事。

怖いもの知らず、とまでは言わない。

けれど、1人で出来る物事は難なくこなしていく様子に俺は唖然としたのを昨日のように覚えている。


特に驚いたのは料理だった。


ばあちゃん家で暮らすようになってからの彼女は急成長を魅せた。ばあちゃんもじいちゃんも最初は心配していたけど、今となっては安心したように見守っている。


包丁さばきはよく料理番組でみるようなプロ並で、味付けはもう目分量らしい。俺はバイトで彼女の料理姿を一度も見たことがないから、いつかは見てみたいとひっそり思っている。



――パカ


広げた色とりどりの弁当はもちろん羽星の手作りだ。

全てが手作りではないけれど、料理が趣味になった彼女は俺の弁当を朝起きて作ることが一番の楽しみらしい。


今日のメインは明太子入り卵焼きだ。昨日のたらこスパゲティの残りを使ったんだなと感心しながら口の中に放り込む。

色合いはもちろん、味付けも程よく塩辛さが口の中に広がったと思いきや、ほんのり甘みが加わって美味さ倍増だ。


あー……この美味さ誰かに教えたい。
一番食って欲しい人たちはもうこの世には居ないから。

一応、食べることはできないけど、見せることは可能なはずだと思ったから写真は撮ってる。


慣れない手付きだからどれもブレブレ。それでもこれはちょっとした俺の趣味になりつつあるのは確かだ。


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