泣いてる君に恋した世界で、
たどり着いた場所に立ち止まり、見上げる。
さらりと靡く枝には散りかけの桜が落ちまいと咲き誇っている。中には若葉もあった。
4月の半ばだっていうのにもう新芽が出ているとは夏がもうすぐ来るってことか。その前に梅雨か。
そういった季節の流れを感じ取りながら俺はスマホを上に掲げた。
――カシャ
乾いた音が合図したかのように強い風が吹いた。
反動で瞑った目をあける。スマホ画面には見事な色合いと角度で写し出された桜と空があった。
今までで一番といっても過言じゃないそれに半ば興奮しながらまじまじと眺め、すぐ側にある古びたベンチに腰を掛ける。
あまりにも綺麗に撮れた写真ってこんなにも気持ちいいことを知ってしまった俺はこの瞬間きっと沼にハマってしまったんだと思う。
スマホを構えたくてしようがない。
今度本格的なカメラ買ってしまおうか。
そうやって楽しみを作ろうとすると違う声がその意志を邪魔する。
『なに楽しんでんだ?』
『買っても無意味だろ。くだらない』
『なに笑ってんの。笑うなよ』
『本当は死にたいんだろ? 早く探せよ』
心の声はいつだって悪魔だ。
俺をすぐに現実へと引き戻すんだから。
そうだ。俺は死にたいんだった。楽しむことも笑うことも許しちゃいけない。唯一家族の前ではそれを可能としているだけであって、俺の本望は変わらない。
撮影画面を閉じてその場から離れようと立ち上がった。何となく視線を感じて辺りを見渡す。
止まった先には人がいた。座ってしまった人の顔はちょうど物陰に隠れて見えない。たしかあそこは美術室。
ていうか、何故こんな近い距離(約半径10m以内)で人が居るって気付かなかった? 普通気付くだろ。やばい。もし最初から居たんなら見られてた……?
さらに動揺している俺に追い討ちをかけてきたのは目を疑うもので。
「え……」
物陰からひょっこりと出てきた人を見て声が上擦った。見覚えがあったからだ。
廊下へ出ようとするあの後ろ姿。歩き方。姿勢の良さ。全てがあの日と重なって見えた。
――― “もう一度、会いたい人” だ。
そう思うよりも先に俺は彼女らしき人物を探しに走り出していた。