泣いてる君に恋した世界で、
やっぱりその問いかけには無反応だった。
最悪な俺と話したくないのか、それとも目の前に集中しているのかは分からない。きっと前者だろう。それでも頷いたり返事の一つや二つくれてもよくない?
まじで別人なのかもしれない。
あの時の彼女は落ち着いていて、大きな目はキラキラしていて、肩より上くらいの髪が風に揺られて清々しくて、なによりその横顔が綺麗で―――。
「あの、近いんですけど」
「ん? ――わ!? え!ごめん!アレ?」
「ふふっ」
初めてみた彼女の笑顔。なぜだろう。胸の奥がくすぐったくなる。まるであの日と同じだ。やっぱり目の前にいるのは屋上で見た彼女なんじゃないか?
「あのさ。変なこと聞くけどさ、……前に俺と会ったことある?」
そう聞いてみると彼女は意外と大きな反応をみせた。
大きな瞳が俺を見つめる。綺麗な水晶玉みたいだ。黒いけど中にラメが散りばめられてるような。
そんな彼女は我に返ったかのように俺からスケッチブックへ移した。そしてまっさらなページから1つ前のページに戻って無言で渡してきた。
「え、何」
「それ。さっきの君だよ」
「へぇ……え!?」
「やっぱり気付いてなかったんだ。黙って後ろから見てたら優しく君を撫でようとしてたから触って欲しくなくて奪ったってわけ」
手元からスっと取り上げた彼女は俺を見ていたずらに笑った。
途端に顔が熱くなるのを感じた。
やっぱ最初から見られていたんだと確認したからとかじゃなくて、そんなことよりも俺自身に恥ずかしさを持ったからだ。
俺あの時……―――うわあ思い出しただけでも嫌だ。何 “絵の中の人に憧れ” って。しかも俺自身に。
「変な動きして何してるの。変なの」
「こ、これは、別に特に意味なんて、ないっつーか……」
記憶を消し去りたいくらい恥ずかしい。変な動きとかどうでもいい。もう笑っててくれ。