泣いてる君に恋した世界で、
病院の屋上に来る度に同じことを繰り返し問いかけ続ける癖、そろそろどうにか直したい。
と思いつつ当然のようにやってしまう。
止められないんだ。屋上に来ると。
どんな空でも君の手にかかれば魔法のように彩られる世界を思い出すから。
君のことが忘れられないんだ。
君は俺の―――。
「槙田先生!急患です!」
俺を呼ぶその声に緊迫感を取り戻した。
屋上を飛び出て、階段を駆け下りながら患者の状態を詳しく説明しながら、少し怒り気味で「探しましたよ先生!」と言われてしまうのも日常的だ。
俺の癒しはこの屋上と空だから。そして君がそばにいる気がするから。
「ごめんごめんっ、俺が居ない時は高確率であそこにいるから。あと、コールしてくれれば……あ、」
「もー何度もしましたよ。全然出ないからわざわざ呼びに来たんじゃないですか!てか槙田先生が屋上にいることはこの病院内全員が知ってますよっ」
有名ですよ、と続けた言葉に苦笑いを浮かべる。それから、先を急ぐ早口な後輩にプンスコ怒られるとどうも調子が狂う。
少しだけ、君に似ているからなのかもしれない。ほんと少しだけ。
「――よしっ、気張ってこ!」
君を救えなかった後悔を糧に俺は医師として今を生きている。
その道のりは長く険しかったけど、君を想えばどんな高い壁も乗り越えられた。
だから君のいた世界を知って欲しい。誰かに。誰にも話したこと一度もないけど。
あの日は酷く寒くて、夕陽が鬱陶しい冬の時期だった―――。