泣いてる君に恋した世界で、
赤く染った君の横顔うつくし
ゴールデンウィークがやっと明けた今日――登校初日は疲労が積もりに積もってふらふらだった。
何がゴールデンウィークだ。人手の足りないバイト先(カフェ店)で俺はほぼ毎日勤めたし、休日になれば羽星とデートした。
妹に振り回されるも何かと甘い俺は連勤の疲れなど忘れて大型ショッピングモール――洋服店や雑貨店、本屋、映画館などを満喫していた。
その代償といったらなんだけど、午前の授業はほとんど頭に入っていない。ノートも何書いてるか分からないくらいミミズ状の黒い線が所々に伸びていただろう。
「――そんな所にいるともっと起きれなくなるよ」
くすりと笑う彼女――望月咲陽に描きながらそう言われる。
曖昧に返事をして再び顔を伏せる。
……そっか、今昼休みなんだ。
まじで記憶にないわここまで来た経緯も……。
窓際、日の当たった机が望月と過ごすときの俺の定位置。望月は俺の周りにある机らを退かして2mくらい離れた所で絵を描いている。
顔を上げて視線を少し右にずらせば真剣な表情でそこにいる。そんな姿を先月の半ばから毎日のように見ている。
『また来てよ』と言われた次の日から昼休みになると美術室へ向かった。昼食も込みだ。
望月はまさか本当に俺が来るとは思わなかったのだろう。言葉が出てこない程驚いていたっけ? しばらく突っ立っていたし。あの顔はなかなかのものだった。
“鳩が豆鉄砲食らったよう” とはまさにこのことなんだなと実感した瞬間だ。
望月と昼休みを過ごしてまだ2週間くらい経つ。その期間でも彼女を知ることは結構沢山あった。
・彼女は同級生だということ。
・美術部。
・コンクールで何度か入賞したことがある。
・次こそは最優秀賞がいい。
・とにかく絵を描くことが好き。
・得意とするのは風景画。
・水彩は勉強中。
・家族構成は父母姉犬1匹の計4人+1匹家族
・笑うとくしゃくしゃになる。
・結構おしゃべり。
・描く時の集中力半端ない。
・その姿を見ている時間が結構好きだったりする。
……etc。
なにより、望月はあの日の彼女なのだと更に決定づけられた。
その横顔もふわふわした声も、後ろ姿、歩き方……全て一致しているから。
俺の会いたかった人が目の前にいるなんて信じられないくらい奇跡だと思う。ましてや同じ高校で、同級生。
世界って狭ぇんだな……。
「――槙田くん」
聞き慣れた声にガバリと起き上がった。上を向くと大きな瞳と視線が絡む。
「おはよう。もう予鈴鳴ったよ。5限体育じゃなかった?」
「あー…………、――!!やっべ!!」
慌てて去る俺の後ろから吹き出したような笑い声が聞こえた。他の音は雑音で掻き消されて分からない。
―――ただ、あと少しあの場を去らなければ。あと少し一緒に居てれば。彼女の小さな異変に気付くことができたかもしれない。
とは、今の俺には知る由もなかったんだ。