泣いてる君に恋した世界で、
帰宅したのは19時頃。晩ご飯のメインはハンバーグだった。また見損ねてしまったと思いつつ頭ん中に浮かぶのは望月の笑顔とあの瞬間だ。
寝る前にもう一度見たくなってカメラロールを開く。すぐに出てきたブレまくりの画像に笑うと同時に望月と過ごした放課後を思い出す。
あれからずっと笑いっぱなしで、2人して目に涙を浮かべていた。あんなに笑ったのは史上初だと思う。笑わないと決めてたはずなのにいつの間にかその掟を破っている俺って優柔不断なのか?
『人は楽しいから笑うんだよ』
いや、きっとその言葉を真っ直ぐに受け取りすぎたんだ。納得してしまった感が凄いもん。今思えば。
ま、認めるしかない。あれは結構楽しい時間だったから。
――ピコピコ
LINEの通知音だ。
寝に入ろうとした時に起こされるやつ正直いってダルいしむかつくし、起きたくない。
そんな思いを抱きつつスマホを点けると脳全体が覚醒した。飛び起きてしまうほどに。
メッセージは望月からだった。開いてみると1文だけ置かれている。
【放課後また来てよ】と。
なんか場所は違うけれど懐かしい。読むと脳内で望月の声が再生されるから余計に擬似感を覚えるんだ。
【バイト無い日に行く】とだけ送信すると既読がすぐについた。返ってきたのは【待ってる】と、嬉しく飛び跳ねたうさぎのスタンプ。
そして、数秒後に【おやすみ!】と吹き出しが加われた。同じく返すとまたすぐに既読がついてそのまま会話が終了した。
望月とのメッセージのやり取りは初めてだった。それは帰り際に連絡先を交換したからなんだけど。メッセージ内の一番上には2人で爆笑した写真がある。
俺ってあんなに笑えるんだな。たった1枚の写真だけなのに腹筋が割れるんじゃないかと思った。和希といた頃でもあんな爆笑までは無い気がする。
あそこまで笑えたのは多分望月の笑い方にも問題あると思う。ありまくりだ。大声で笑ったり、喉の奥で笑ったり、突然思い出し笑いするから。机に突っ伏して叩いたり、千鳥足に笑い転げたり……。
見ている方が逆に楽しくて、つられるように笑っていた。
うつらうつらする中、スケッチブックを思い出して俺の質問は写真によって掻き消されてしまったんだなと気付くもそのまま意識は遠のいていった。
ほんの少し残っている意識で言い聞かせる。
いいんだ。昼休みでも放課後でも次会った時にはいつでも聞けるんだから、と。
―――その “いつでも” を当たり前のように思い、過ごしていた。知らず知らずのうちに黒い影が迫っているなんて分からない俺に咲陽専用の探知能力が付いていれば、なんて思ったのはそう遠くない話だ。