泣いてる君に恋した世界で、


「エッ!これ私の分!?」

翌日。約束通りの物をあげると驚きとともに、ぱあっと嬉しそうに目を輝かせてくれた。やっぱり小動物。なんかポメラニアンに見えてきた。

美味しそうに頬張ってくれる様子に自然と口角が上がる。羽星よかったな。めっちゃ喜んで食べてくれてるよ。俺まで嬉しいや。


「ちょっと、槙田くん?何向けてんの?」

 
――カシャ


あ、やべ。

そう思った時には手元からスマホが奪われていて。それを見た彼女は「やだ〜」と半分照れたように顔をしかめていた。


「ほんと有り得ないんだけど!しかも人の食べてる姿」

「ごめんごめん、つい手が。……でもいいじゃん。美味しそうに食べてる望月見せたら妹喜ぶし、てか見せたいし」

「そっ、妹さんのためなら……別に、しょうがない、ケド……って何その顔!」

「は、ハア!?」


俺の顔が何だ?そして何でか頬が赤くなってるのは気のせいか? 怒ってるんだか照れてるんだかよく分からない。赤いだけじゃ。

望月ってさ、怒ると何も喋らないっていうか、言葉数が少なくなるんだ。照れてるときはさ――。


「あ今日バイトある?無かったらちょっと手伝って欲しいっていうかあのえと、モデルっていうかそのあの……っ」


早口で喋るし、



「やっぱ俺のこと描いてるんだ?」

「へ?だ、誰が?」

 
余計なことまで喋ってしまうんだ。な。この反応は図星ってことだろ? もう言い逃れはできない。させない。


「スケッチブック2つ持ってるだろ?緑の方は風景画で、オレンジは……俺って感じ?」

「――! ……う、ん……でもどうして」

「一度俺に見せてきた時あったろ? ほら、俺がベンチで桜の。あの時渡してきた色がオレンジだったし、俺さ、もっと確信的な事が知りたくてよく寝たふりすることがあんだよね」

「……ねた、ふり……」

呆気にとられた様子に俺は言葉を重ねた。


「望月のこともっと知りたかったから」

「えっ」


更に目を丸くする望月を不思議に思う。

この時彼女にとって大きな意味をもたらしていたことを1ミリだって感じ取っていない当人は思いのままに喋り続けた。



「望月とこうして過ごすの好きだし、真剣に描いてる望月見るのも好きっていうか……だから俺なんかで良ければ、」

「――ま!待って!ちょっと待って!」

「?」

「いいからっちょっとだけ時間、考える時間欲しいからっ。……あ、私に飲み物買ってきて!ほらほらっはいお金!コーヒー以外だったら何でもいいから。よろしくっ」

「え!?ちょっ、押すなって!」


そう背中を押され美術室を出された直後に振り返って見ると手をひらひらさせて冴えない笑顔で俺を見送っていた。

訳の分からない展開に首を傾げつつ自動販売機を目指す。


考える時間?あんなに俺を描いているのに?俺にモデルになって欲しいって言ってたから俺はただ “いつでもモデルになってあげる” と言おうとしただけなんだけどな……。


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