泣いてる君に恋した世界で、


重たい足は着実に向かった。

無機質な取っ手を無い握力で捻るとその反動で扉はいとも簡単に開いた。

ほんの少しの隙間から真冬の冷たすぎる風が簡単に俺を巻き込む。

一瞬身震いしたのはまだ生きてる証拠。



あぁ、俺ももうすぐ……。



ゆらりと近づいて白い柵に手を掛けた。下ばかり見ているので当然下の様子が伺える。


数えられるくらいの車が点々とそこにある。ここは病院の駐車場のようだ。

真下には何も無い。コンクリートと白線が見えるくらい。

俺は今からそこに向かうんだ。
ここから飛び降りる。


あぁ、落ちたら死ねる。やっと死ねるんだ。もうこんな思いは懲り懲りなんだ。だから今すぐ死にたい。死なせて欲しい。

これが俺にとって最大の償いだから。
いいだろ? 全部俺が悪いんだから。 自分の死に方くらい好きにさせろよ。


俺の身長でもこの柵くらいは簡単に乗り越えられる。

まさかこの病院で自殺者が出るなんて思わないんだろうな。ハハ。いるんだなそれが。

乗り越えようと腕に最期のチカラを出した。

その時だった。

眩しいオレンジ色が目に射し込んだんだ。それと同時に幼い声が耳に入ってしまった。



『お兄ちゃん!』


まだ小学校に入ったばかりの女の子の声が……。



「はっ……ハハ……」



馬鹿だな。なにしてんだ。なぜ腕の力を落とした。何故……ってそうじゃない。

なに独りにさせようとしてるんだ。馬鹿なのか俺は。うん、馬鹿なんだ俺は。

だって自分ばっかしか考えてない時点でもう馬鹿じゃん。



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