泣いてる君に恋した世界で、
滲む世界で君は微笑む
今年の夏は蒸し暑く、騒がしかった。
それがこの夏休み期間中の感想だ。
9月にもなれば再び騒がしくなる校内。来月には本番が待ち構えているため、放課後は任意で居残り作業をしている。
なんとなく任意だからと居残る人は数えられるくらいだろう。
そう去年を思い重ねながら取り組んでいるけれど、思ったより多い人数に圧倒された。
あまりにも異なりすぎた状況に半ば期待してしまう。俺の心情も今年に入ってから大いに変わったと思う。
まずこんな風にクラスの輪に入っていること自体が大きな変化だ。しかもなんか勝手に裏で話が進んでいたようで今や俺を呼ぶとなると――。
「オーナー!」
「槙田オーナー!」
なんて呼ばれている。
正直恥ずかしいし、好きじゃないし、文化祭終わったら即解除して欲しい。
だけど仕方ない。
そう呼ばれてしまう理由は俺たちのクラスが “卵焼き屋” だからだ。
幸いなのは同性だけには苗字で呼ばれていることだな。……ノリのいい奴は除いて。
「槙田オーナー!」
「……あんまその呼び方好きじゃない」
「うん知ってる。そんな顔してるもん」
「じゃあ止めてくんない。他の人にも言ってよ――あ、ソレ取って」
ダンボールを解体しながら月影の近くにポツンと居座っているガムテープを指さす。はいよと渡してくれるかと思いきや、ダンボールを下に置いてと指をさされた。スタート地点でガムテープを押さえる俺と端まで伸ばしていく月影。それはあっという間に頑丈になった。
「いや〜やっぱ共同作業は早いね! 槙田くん、一人でやろうとしてたでしょ」
「……まぁね」
ひとりになりたかったし。
「もっと頼っていいんだからね?クラスメイトなんだから」
「あーうん。ありがと。……でも、一人で出来るから」
「そ う だ け ど ! そうじゃなくて。遠慮しないでってこと。ひとりでいることに慣れてるのかもしれないけれど。逆に尊敬するけれど! ……それになんか槙田くん元気ない」
なぜか必死に伝える月影。そして急に沈んでいく。その様子に笑んでいると今度は優しげに笑った。
「夏休み明け初めて槙田くん笑ったね」
「え?」
「あとよくスマホ見ては眉間にしわ寄せてる」
月影は自身の眉間に軽く触れた。つられて俺も同じように触れる。
そんなに寄せてた? ま、そう言うんだったらそうなんだろうけど。よく見てるんだな。
そういえば俺ん家来た時も初対面の羽星に「髪切ったの?」なんて言ってたっけ。後から聞けば、スマホのロック画面で見たことある女の子が目の前にいたから――との理由でそう言ったみたい。
ちなみにロック画面はエプロン姿で可愛く笑った羽星だ。
そうだとしてもこの洞察力は長けていて尊敬すら覚える。俺はあまり変化とかに疎い方だから。特に人に関しては。きっとその能力はバスケで備わったのだろう。