泣いてる君に恋した世界で、
「――くん。槙田くん!」
肩が大きく揺れた。我に返った俺の目の前には月影の顔がある。心配そうに覗き込まれる程意識が望月の方に飛んでいってしまったみたいだ。
大丈夫?と聞かれれば大丈夫と返すだけなのに向こうは納得していないようで3回ほど同じことを繰り返された。
しまいには。
「嘘だ。大丈夫って顔してないさっきから。気付いていないようだけど私数えてるからね。ため息の数。もう36回目だよ」
と言われる始末だ。
てか、数えてるのもなかなかのものだと思うけど……全然気付かなかった。ため息そんなにしてたんだ俺。それは何度も聞きたくなる、かも……。
望月がそうしてたら心配で何度も聞いてるかもしれない。
「……なんかあったの?」
ストンと心の内に触れるやわらかな言葉に少しは素直になってみようと口を開いた。
「……LINEのさ、返信が来ないんだよね」
「いつから?」
「いつっていうか、試作品家で作ったやつを送ったんだよ。いつもなら即返信が来るんだけど既読すら付いてないんだよね。学校始まって2週間は経ってるじゃん?全く見かけないんだよね」
最後に会ったのはあの時――望月の隠し事が発覚した日だけれど。ずっと笑ってたし。彼女に対して機嫌を悪くさせるようなことはしてないはず。
「あ、ごめん。なんか色々と。――あ!」
ふと思い出したのは、望月の親友のことだった。椎名先輩はバスケ部の部長と聞いていたこともあってもしかしたらと閃いたのだ。
たしか月影もバスケ部だったよな。
「なあ。バスケ部にシイナ先輩、いるよな?」
「あ、うん。部長だけど……茉由先輩がどうかした?」
「3年何組か分かる?」
これで聞き出せたら明日クラス覗いてみよ。望月のこと何か知ってるかもしれないし。
「たしか……3組。てか槙田くん、茉由先輩と知り合いなんだ?」
「あー、まぁそんな感じ。つい最近知ったけど」
「あ、そうなんだ」
そう言った月影はなぜか安心したように息を吐いていた。
その意味に鈍感な彼の思考は気付くことはない。椎名茉由と彼が知り合いだと知った彼女の思考は不安ばかり募っていったことすらも気付くことはなかった。その安堵の息には何が込められていたのかも。
時刻は17時30分。周りもちらほらと片付けに入っていたこともあって俺らも丁度いいところで切り上げた。
「また明日」とみんなが口を揃えて言うこの光景の中に自分が含まれているなんて1年前の俺が聞いたら寝耳に水だろうな。
……文化祭、楽しみだな。
――しかし。現実は甘くなかった。
やっぱり俺は楽しいことを味わってはいけないらしい。楽しみは俺にとって不必要なモノなのだと気付かされたのは翌日の昼休みのことだった。