泣いてる君に恋した世界で、
煌めく世界で君とふたりきり
ついに迎えた文化祭。
雲ひとつない秋空を1枚写し撮り、指が乱入していないかを確認してから望月に送った。
すぐに返信が来れば、そこには病室から撮られた1枚の空の写真に自然と口元が緩む。
その隙に望月から【私の分までたくさん食べてきてね】ときたので、【分かった。写真待ってて】と送った。
返信は【ありがとう】と嬉しそうに飛び跳ねるうさぎのスタンプ。文面からでも伝わるくらい楽しみにしているのだと思うと俄然張り切ってしまう。
なぜだろう。望月のためならどんな願いでも叶えてあげたくなる。彼女の笑う顔を見たいし、喜ばせたい。好きなんだと思う。楽しそうにしている望月を見るのが。
彼女のためならなんだってできる。
未だ治療に励んでいる望月を何ひとつ問題なくここに連れ出して文化祭を楽しませる――なんてこともできるならしてあげたかった。
病室を訪ねてから1ヶ月経ったけれど、彼女の様態は正直にいうとあまり良くない。俺の前ではいつも何事もなさそうに平然としていて、笑って見せてくれる。けれど、見るからに体調は良くない。
それもそのはず。抗がん剤を投与しているのだから。
望月に与えられたものはとても辛く苦しいものなのは俺も彼女もよく分かっている。けれど想像以上に耐え難いものだった。正直いってその様子を見ているのが辛かった。
それでもなお、あんなに苦しんでいる彼女は生きるために一生懸命頑張っている。笑顔だって忘れずに治療に励んでいる。
そんな彼女をどこまでも強いと思った。
俺だったら望月みたいに人前で笑っていられないと思うから。前向きになることもないだろうし。第一、死にたいと思うやつだったし。きっと俺はそんな状態になったら “死” についてしか考えられない人間なんだと思う。
「――槙田くん!」
「わ、月影か。おはよ」
「 月影ですー。おはよ! 頑張って売り上げていこうね!」
「おう」
活気溢れる校内はどこもかしこも来場客で埋め尽くされていて、中でも卵焼きがこんなにも大繁盛するなんて思わないくらいの大行列に圧倒された。
じいちゃんもばあちゃんも羽星も俺の元に来るなり「すごい人ね」と伝えられる反面、嬉しそうに全種類一つずつお買い上げしてくれた。
なにより一番喜んでいたのは羽星で。そんな妹を月影が見つけると、受付の中に入らせて買う人々に紹介されていたのは俺も本人も驚いた。
それでも羽星にとっては特別な体験だったようで、飲み込みの早い彼女はほんの少しだけ小さな受付嬢となっていた。
その様子を写真に収め、望月の元へ。
すぐに反応が返ってきて、俺の口元は緩んでいた。自慢の妹を褒められれば必ずそうなる。気を付けようにもこればかりは素直なのだ。