泣いてる君に恋した世界で、
交代したのは12時頃。腹減りすぎて脳内ではお腹と背中がくっつきそうなメロディーが流れている。
噂によるとどこの飲食店も売り切れ状態で、準備中らしい。たしかに俺たちの隣に構えてあるたこ焼き屋もひと足先に準備中になっていた。
とりあえず、望月に交代した事とどこも準備中で卵焼き以外は食えない事を伝えた。
すぐに返信が来ないのはきっと頑張っている証。そう思うようにしている。ほんの少しの不安を胸の内に抱えながら校内を探索することにした。
その前にあらかじめ取っておいた卵焼きをいただく。評判のいい卵焼きは俺からしたらいつもと変わらない味だ。それでも、一段と美味しく感じるのはきっと周りが美味しく食べてくれているからだと思う。
ちなみに4種の中じゃ断トツでだし巻き玉子。かじると出汁が口の中に広がっていくのが良い。とはいっても普段からのお気に入りなんだけど。
だからなのか余計に望月に食べさせたくなる。絶対いい反応してくれる。目を大きくさせて、親指を立てて……。
そんな想像をしていた時、ポケットの中にいたスマホが震えた。
受信者はもちろん望月。開けば。
【あら残念】
【いいなー卵焼き】
羨ましそうに呟いたような文面があった。その1分後には。
【いいな文化祭】
【私も参加したかった】
【笑】
胸の奥が締めつけられる文面に顔が歪みそうになった。そんな顔するのは俺じゃなくて望月の方なのに。
彼女の気持ちが痛いくらいにこの文面から溢れて伝わってきたから。もし、病気じゃなかったら今頃 “初めて”の文化祭を楽しんでいただろう。
だって夏休み前あんなに楽しみにしていたのを目の当たりにしていたのを俺は見ているから。
その時は教えてくれなかった望月のクラスの催しはメイド喫茶だと知った以上、彼女のメイド姿を見てみたいと思ったのは正直なところで。
俺も悔しい。なんなら物足りなさがある。俺だって楽しみにしていたから。望月と過ごす文化祭。
いくら同じ空が繋がっているとしても、スマホで繋がっているとしても、今ここにいないんじゃ楽しもうにも楽しめない。
望月がそばにいるっていうことが俺の中では当たり前だったんだ。
学校が楽しく思うようになったのも望月の存在があるから。彼女がいるだけで安心する。たまに愛おしく思うこともある。
――ああ、だからか。病気って聞いたとき心臓が止まったような感覚になったのは。
彼女は俺の大切な人だから――。