泣いてる君に恋した世界で、
手の中のものが震えた。もちろん望月から。
どうやら俺はいつの間にか送っていたみたい。それに対しての返信が届いてる。
【なにそれ笑】
【へんなの】
【でも】
【ありがとう】
なんとなくだけど、この文面を送った望月の表情が思い浮かんだ。その伝わってくる温かさに口角が緩む。
それでもきっと俺が送った言葉は緩く受け止められているだろう。
[俺も楽しみにしてた望月と回るの]
[だから、来年一緒に回ろ]
数分前に送った自分のメッセージは無意識のものだけれど、本心だ。確かに『何言ってんだ』とはなる文面に笑われるのも可笑しくない。
それでもそう思っている以上嘘偽りなど全くない。
ただ、望月と過ごしたい一心での言葉だから。
[言っとくけど冗談じゃないから]
[本気]
それに対して望月は――。
【わかった笑】
【じゃあそれまでにちゃんと治さなきゃね!】
そう返してくれた。
その後はしばらく会話することはなく、俺だけが一方的に写真を送り続けるメッセージ欄になった。
反応が返ってきたのは校内を3周くらい巡った頃の2時間後。
スマホに触れればマナーモードが一定のリズムを刻んでいる。画面には “望月” と表示されていた。
一瞬躊躇ったのはメッセージじゃなく、電話ということで。一呼吸置いてから緑のボタンを押す。
耳元にはたどたどしい《もしもし》と透き通った声音で《槙田くん》と呟くような囁き声で、どちらも緊張を帯びているような微かに震えた声が鼓膜を震わした。
その声に胸の奥が締まるような感覚を抱いた。望月が今どんな顔をしているのかを感じ取ったからだ。
声だけでどんな表情をしているか断言できるはずがないのに、なぜ確信をもてるのか。俺にはサッパリだった。
それでも彼女が今にも泣き出しそうな気がした。スマホから零れる彼女の声はずっと震えている。だから――。
「望月、こっち見て」
スマホ画面には俺を見下ろすような角度でこちらを見ている望月が映っている。
一瞬気の抜けた表情を見逃さなかったけれど、気付いていないフリをして、驚きふためいてる彼女に笑った。
《エッ エッ エェえ!?》
「ふはっ、望月慌てすぎ」
《ま、槙田くん!?え なんで!?》
「なんでって、駄目だった?ビデオ通話」
首がもげそうなくらい横に振る望月に笑ってしまう。そして、やっぱ愛おしい。
彼女を少しでも不安から遠ざけたくてこの選択をしたけれど、ホンネは望月の顔が見たかったんだと画面にたくさんの表情を向けてくる彼女を見て思った。
すっかり見慣れたニット帽。今日の色はオレンジ。
その為なのか、顔色が良く見える。元から色白だけれど、病にかかってしまってからはより白さが際立って血色も悪く見えるようになってしまった。
彼女自身も残念そうに言ってたのを思い出す。
ただ、やっぱり望月はいい意味で諦めが悪かった。
だから毎日色んなカラーのニット帽を被っている。肌の色をよく見せるということがそれの役割だと思うけれど、多分その日の気分も関係していると俺は思っている。勝手に。
「望月、今大丈夫?」
《? 大丈夫、だけど……どうかした?》
「どっか行きたいとこある?」
《え?》
「俺と一緒に回らない?」
そう言ったあと心臓がバクバクした。画面には微動だにしない望月がいて、表情も固まっている。
おい。なんか言えよ。なんで黙ってんの。余計恥ずいっつーの。
そう心の中で言うわりには俺の顔は綻んでいた。