泣いてる君に恋した世界で、

《――これって、デート?》


ほんの少しの静寂からポツリと零れ落ちた言葉に何故か胸が高鳴った。

画面に映る彼女は何やら含みを持った表情でいて、完全に楽しんでいる。

そうと知れば、ベンチから腰を離して歩き出した。


《ねえ、ちょっと聞いてた!?》

「聞いてた聞いてた」

《槙田くん、今座ってたとこって美術室前のだよね?》

よく槙田くんが写真撮ってた場所、と意気揚々に続けて言う。

聞こえないふりが逆効果だったようで、次第には閃いたような弾んだ声音へと変化させた望月は案の定、瞳をキラキラとさせて俺を見つめてる。


「――かわいいな」



そう呟いた声は自分のものだった。

気づくのにほんの数秒遅れたのは誰かが俺の心の声を読んだからだと思っていたからで。なのに画面には望月が小さく狼狽えていて。

熱い。顔だけじゃない。身体中が。汗まで掻いてきた。もう夏じゃあるまいし。めちゃくちゃ恥ずいし!

望月のこと見れない。話しかけられても見れない。せめてこのことを思い出させないで欲しい。


《槙田くん、》

やばい。

《今、なんて言ったの?》


あー……。


やっぱ聞いてきた。恥ずいから答えたくないんだけど。誰だよ心の声を喋ったやつ……。

しばらく無言を貫き通しながら回っているけれど、スマホからは望月の声がよく届く。何回呼ばれたのだろう。言うまで呼び続けそうだな。

……まじ勘弁して〜。


《槙田くん、槙田く――》

「うるさい」

《あ、やっとこっち見た》

「どんだけ呼ぶの。ずっと聞こえてるし」

《なら返事くらいしてよ。こっちは真剣なの。ちゃんと聞きたい。だって突然すぎたんだもん。心の準備ってものがあるの》

胸を優しく叩く彼女にため息を吐いた。さらには、“お願い” と手を合わせられてしまう始末。これはもう仕方ないというか、こっちが折れるしかないようだ。


「……わかったよ。言うよ」

《ホントに!?ありがと〜!》

「…………」

《なんで黙るの》


なんかやられた感が凄いのは気のせいか?

まんまと乗せられてる気が……。


望月は俺にかわいいってもう一度言わせようとしてるんだよな。え、やだ。恥ずい。

てか無理。かわいいと思ったけど。心の声が勝手に表に出ただけだし。口に出すなんてムリムリ。


正気に戻った思考で正直に口を開いた。


「――やっぱ言わない」


案の定、項垂れて頬なんか膨らませた望月に今度こそ胸の内で「かわいい」と呟く。

その代わり笑った。
笑っただけなのに望月は《ずるい》と言うんだ。

今にも泣きだしそうにして。伝染したかのように俺まで泣きそうになった。


……――あぁ、望月にふれたい。今すぐにでも。


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