泣いてる君に恋した世界で、
冷たい風が俺たちの間を通り向ける。
なんか思った以上に普通な自分に驚く。さっきまでの動悸や汗なんかが嘘みたいにピタリと治っている。こんなに呆気らかんとしていたんだっけ? 告白って。俺だけ?こんなに時間の速さを気にしないのは。一度何かの拍子で読んだ小説には、『時間が止まる』とか『恥ずかしい』とか、いろんな感情がぐるぐるしている心情ばかり書いてあったけど……。
俺にはそんなの1ミリも訪れていない。感情バグってんか?
どっちにせよ、俺はおかしいんだ。
一方、望月は、俺とは真逆の様子でいた。
明らかに戸惑っているっていうか、固まっているのは確かで、目が合ったと思ったらすぐ逸らすし、俯いたり、俺には顔を向けてくれない。
「ごめん。いきなり」
そう言えば、横に首を振ってみせる。これは『大丈夫』と捉えてもいいのだろうか。
「一応言っとくけど。恋の方だから」
彼女がこくりと頷くと静かに鼓動が大きくなった。
小さな動きでも愛おしく思ってしまうのはおかしいことなのだろうか。それとも正常? こんなの初めてで味わったことない感情だ。好きが増すっていう現象。
いつまで経っても顔を向けるどころか声を発することもしてくれない彼女に痺れを切らして、屈んだ。
こうしても顔は見れなかった。
「望月、好きだよ」
顔が見たくて何度も伝える。耳にたこができるまで言ってやるくらい、なんなら『うるさい』って思わせるくらい。しつこい男だと思わせてもいいくらい、言い続けてやった。
気持ちは全て本物だ。嘘はない。気付いてしまったんだ。いつの間にかこんなに望月のこと好きになっていたことに。
そんな俺を止めたのはアイツだった。
心の臓の奥の奥に響く振動、街一体を惹きつける轟き、いくつもの輝く大輪が。
「あ!槙田くん、始まった!!」
嬉しそうにはしゃぐ彼女を可愛いと思いつつ、花火に負けたと気づかれない程度に苦渋を噛んだ。
目の前に広がる煌びやかな景色には勝てまいと彼女の顔を見れば一目瞭然で、このまま無かったことにされても構わないと思ってしまう。消されてもいつでも上書きできる。そんな余裕な感情でいて大丈夫なのだろうか。
……俺って身勝手なのかもしれない。
ドドーンと咲き誇る中、隣から声がした。近距離でも聞き取れなくて聞き返す。
「槙田くんて恋するとめんどくさい系になっちゃうのね!」
「え!?」
「槙田くんしつこい!」
「え、ナニ!?全然聞こえない!」
「聞かなくていいよ!全部ウソだから!」
「エエ?まじで聞こえないんだけど!」
望月は面白そうに笑い続ける。聞き返すたびに俺の反応を見て笑っての繰り返し。ぜってぇ遊んでる。
いや、まじで聞こえんのだけれど。花火邪魔だな。タイミング測ってんのかっていうくらい望月と被りすぎて……。ある意味すごいわ……。
自然に何も言わずただ打ち上がる花火を見上げて、ふと思い出してスマホを掲げてシャッターを切った。
運良く収められた一枚で最後の花火だったようで、静寂だけが居すわる。