泣いてる君に恋した世界で、
「終わっちゃったね〜。15分あっという間すぎた」
「な。写真撮ったから送る。いるでしょ」
「当たり前じゃん。というより助かります。持ってきてるの忘れてた」
恥ずかしげに笑ってポケットから取り出したスマホを見せる。
その笑顔に心を揺さぶられた。見たかった。ずっと。この笑顔が。電話じゃなくて、送られてくる写真じゃないありのままの表情をずっと見たかった。
涙腺がおかしいから込み上げるものを必死に抑える。不自然に流したら望月不審がるだろ。
紛らわすために鼻をすすった。
「あ、槙田くんもしかして寒い?、よね。もういいよ終わったし。そろそろ戻った方がよさそう」
「いいよ気にしないで。カイロあるし十分あったかい」
「いや〜見てるこっちが寒くなるよ。本当に寒そうだがら。現に鼻、さっきからすごいすすってるよ」
気付いてないと思った?とでもいうような視線を向けるけどさ、
鼻すすっていないと違うのが出てきそうになるからそうしてんの、と言いたい。
そっとブレザーに手をかけようとすると取られまいと頑丈に守る彼女。ほらな、と鼻で笑ってしまう。なんで笑うのと聞かれれば答えは一択なのにそこは抑えて、「なんも」とだけ答えた。
ずるいと言われても、何言われても君の全てが何もかも愛おしく見えてしまうからどうしようもない。こんなに人を、望月を好きになってしまっていいのだろうか。俺にはそんな資格なんて無いはずなのに。
「さ、戻るか。あ、ここでたらそれは返せよ?」
望月の背後に回りながらそう言う。頷くのを確認し、車椅子を押し出す。初めて押す感覚は思ったより重味があって難しい。そんな俺を察したのか見上げてイタズラに笑うから少し意地張って反発してしまった。
ドアを抜け、約束通りブレザーとカイロを交換して、さらに望月の病室まで移動した。
その間何も言葉を交わさなかった。院内は意外と緊張を感じさせないくらい静か。それが俺に違和感を覚えさせた。
ドア前に着くと望月の声がした。その途端、緊張の糸が張った。それなのに何を言われるのかは大抵分かっている自分がいて。緊張しているのか冷静なのかよく分からない状態にすら混乱する。
「槙田くん。さっきは好きって言ってくれてありがとう」
宙に置いていくように落としていく声は一言一句俺に刻まれていく。
きっと期待しているのかもしれない。
「嬉しかった。とても」
その言葉に口元が緩む。見えないけど今彼女も笑っている気がする。
トクトクと穏やかに脈打つ鼓動が続く言葉を待つ。
彼女は
2度深呼吸した。
「ごめんね。嬉しかったのは事実なんだけどね。私、槙田くんのこと友達としか見れてないんだ。
わたしは、友達として、槙田くんのこと好き。
ごめんね。
私に恋してくれてありがとう。おやすみ、気をつけて帰るんだよ」
――ずるい。
ただ、そう思った。中へ入っていったばかりのドアを見て。
背を向けて病院を後にする足が地面についているのか分からない。俺はちゃんと歩けているのだろうか。誰か声をかけて欲しい。俺には足が付いてますか。
頭も、心も、魂も。俺は存在してる……?
これはただ単にダメージを受けているだけなのだろうか。だとしたら異常なほどの抜け殻感だ。
振られるってこう言うことなのか?いや、それとはなんか違う気がする。
確かに期待はしてたけど。振られる可能性の方が85%くらいあると想定してた。だから振られたから受けてるわけじゃない。
じゃあなんでこんなに……。