泣いてる君に恋した世界で、


家に着くなり自室へ直行した。3人の声に反応することなく。

ベッドに身を預け、スマホを点ける。新着メッセージが34通。どれもクラスLINEで。今日を労う言葉が寄せられていた。俺も同じように返信した。あっという間に既読が人数分ついて、その異常な速さに驚く。

そいで、待っていたかのように月影から直接LINEがきた。


そこには先程の謝罪の言葉と、


【槙田くんとはこれからも友達でいたい】


なんだかその文面に彼女らしくない様子に思えた。


ただこれが彼女らしさでもあると思う。クラスの誰よりも俺のこと気にかけてくれた月影だからこそ俺も思う。月影が意外と真面目な女子ってことを。クラスでも部活でもその持ち前の明るさを全面的に出しているけれど、ふと見る授業中や部活中の彼女は別人かと思うくらい真面目な人だ。


軽く承諾するとすぐに返信が来る。

そこにはいつもの彼女に戻った感謝の言葉が添えられていた。

自然と大きなため息が宙に放たれる。

どうしてもさっきのことが蘇ってしまう。考えないようにしようとしても望月と見た時間や言葉が無意識に脳内を駆け巡る。そして、離れない。

狼狽えたり、照れたり、子どもみたいに喜んだり。

煌めく光に照らされている横顔、俺が押す車椅子をからかう表情、ブカブカなブレザーを羽織る姿。

……それから、病室前の後ろ姿と声音、中に入ってゆっくりドアが閉まっていく光景。

そのどれもが瞬時に思い出させる。


手に収まっているスマホを再び目の前に掲げ、カメラロールを開く。

最新は花火しかないと思いきや、もう一枚あった。

胸に手を当てながら花火を見上げる彼女の横姿だった。

「いつのまに」

そう呟いてしまうほど撮った覚えのない写真だ。

彼女はこの時何を感じていたのだろう。

俺はこの時――

来年も一緒に花火を見たい、文化祭一緒に過ごしたい、これからも望月の隣にいたい――。


俺の隣に彼女がそばにいる未来を描いていた。

そう。勝手に。描いていた。

望月との未来を。


この思考が何を意味するのかそんなの考えなくてもわかる。

俺は、こんなにも望月のこと好きになっていたんだ。

泣いてしまうほどに。






< 61 / 63 >

この作品をシェア

pagetop