エデンクラブ
乱入
一ヶ月が過ぎて、エデンクラブの畑には野菜達の苗がスクスク育っていた。メンバーは順調に成長している苗を見て、収穫を楽しみにしていた。そんな幸せな一時に、乱入者が現れた。
「へえー、ここがエデンクラブってか」
「何かだせぇな」
学内でも評判の不良二人組である。
「おい! 何だよ、お前ら!」
淳が噛みついた。
「だせぇって言ってるんだよ!」
二人組はそう叫ぶと、畑の苗を引き抜き始めた。一人がスピーカーからスマホを抜く。
「やめろ! お前ら!」
竜也が一人を突き飛ばす。
「こいつ! やる気か?」
二人組は竜也を殴り付けた。
「やったな!」
淳が加勢に加わる。四人は入り乱れて乱闘になった。淳は体力のある頑丈な体のため、平気な顔をして二人の相手をしていたが、竜也はヘロヘロだった。もう一発殴られたら、倒れる――と思った時、西村が駆け付けた。
「おい! お前ら止めないか!」
「ヤベェ! 逃げるぞ!」
二人組は走って逃げていった。
「……全く、あいつらときたら……。おい、大丈夫か?」
西村はへたりこんだ竜也に手を貸した。
「俺達は良いんですけど、苗が……」
「大丈夫さ、竜也。俺が植え直しちゃる」
淳はそう言うと、引き抜かれた苗を植え戻した。
「大分育ったな」
西村が淳を手伝う。竜也はスマホとスピーカーを繋いだ。何時もの優しい音楽が復活して、場は静けさを取り戻した。
「とんだ災難だったわね。でも、これ位で済んで良かったわ」
明里が溜め息をついて、ベンチに座る。
「海野。俺は段々、楽園の意識とやらが分かってきたよ」
西村は竜也の肩を叩いた。
「エデンっていうのは、穏やかで、平和で、同時にあらゆる可能性に満ちた空間なんだと思う。まだ世間の汚濁を知らない幼い子供が、常に生き生きとした躍動感に満ちている様にな。俺は大人になってから、そういう気持ちを忘れていたよ」
「今の時代は、皆そういう気持ちを思い出していくサイクルに入っていると思うんです」
竜也はベンチに座ると、音楽のボリュームを上げた。
「楽園の記憶さえ回復出来れば、争いも無くなると思う。至福の中を漂う方が良いに決まってる」
「さっきみたいな奴等もか?」
「何時かは、彼等だって気付く筈です。人間なんだから」
ナナがやって来た。ナナはニャーと甘えた声で鳴くと、竜也の脚に体を擦り付けた。
竜也は最近場のエネルギーが高揚しているのを感じていた。言葉で説明するのは難しいが、密度の高い空間が押し寄せて、辺りを圧迫しつつ、心身の緊張を解放するような、そんな感じがするのである。思考は溶けて、ただこの空間に身を委ねていればそれで良い様な、そんな楽観的な空気が漂っていた。
竜也は明里を見つめた。最近の明里は以前にも増して、瑞々しく輝いている。可憐でありながら力強い生命の煌めきを竜也は感じた。爆発すれば良い! その溢れる生命力の弾ける噴射で、宇宙まで還るのだ! 竜也はムクムクと力が湧いてくるのを感じた。これは愛だ。宇宙からの。エデンからの呼びかけだ。子らよ帰っておいで、と。その声は優しくて、竜也の胸を柔らかく撫でていく。
「海野先輩、どうしたんですか?」
黙り込んでしまった達也に夏美が声をかけた。
「う……いや、エデンもいよいよ軌道に乗ってきたなって、感動してたんだ」
「そうですか……」
「ところで、仮に宇宙に行けたとして、何がしたいかしら?」
明里が皆に訊ねる。
「そうだな、俺は超新星が見ていたいかな」
淳がワクワクしながら言う。
「私は流星群が見たいです」
夏美が空を見つめて答えた。
「俺は、そこら中を旅してみたいよ」
竜也が夢見る目をして言った。
「よし、今日は皆で宇宙についての詩を書こうじゃないか」
「詩ですか?」
「そうさ。美しい思いはきっと宇宙に届く筈だよ。ここにノートを持ってきたから、順番に書いてくれ」
竜也はブルーのノートとシャーペンを明里に渡した。
「待って……今考えてる」
明里はしばらく考えると、おもむろにノートに書き始めた。
「読んでみて下さいよ」
夏美が急かす。
『宇宙 そこは未知の美が待つ 星の流れに身を任せて 私は一つの光になる』
読み終わると、明里は少し恥ずかしそうに笑った。
「素敵じゃないですか!」
夏美が手を叩いてはしゃいだ。一同は順番にノートに詩を綴っていき、最後に竜也の番になった。
『超新星の爆発 凄まじいエネルギーの放射 世界の母が見守る中で エデンは拡大してゆく』
「竜也らしいな」
淳はそう言うと、ナナを抱いて膝に乗せた。
「何か、詩を書いていると、宇宙の息吹の躍動に乗って行くような感じですね!」
夏美が興奮して叫ぶ。
「上手いこと言うな、夏美ちゃん。誉めて遣わす」
淳は夏美の頭を良い子良い子した。
「もー、止めてくださいよ」
夏美の頬が真っ赤になる。皆はどっと笑って、今日のエデンはお開きとなった。
「へえー、ここがエデンクラブってか」
「何かだせぇな」
学内でも評判の不良二人組である。
「おい! 何だよ、お前ら!」
淳が噛みついた。
「だせぇって言ってるんだよ!」
二人組はそう叫ぶと、畑の苗を引き抜き始めた。一人がスピーカーからスマホを抜く。
「やめろ! お前ら!」
竜也が一人を突き飛ばす。
「こいつ! やる気か?」
二人組は竜也を殴り付けた。
「やったな!」
淳が加勢に加わる。四人は入り乱れて乱闘になった。淳は体力のある頑丈な体のため、平気な顔をして二人の相手をしていたが、竜也はヘロヘロだった。もう一発殴られたら、倒れる――と思った時、西村が駆け付けた。
「おい! お前ら止めないか!」
「ヤベェ! 逃げるぞ!」
二人組は走って逃げていった。
「……全く、あいつらときたら……。おい、大丈夫か?」
西村はへたりこんだ竜也に手を貸した。
「俺達は良いんですけど、苗が……」
「大丈夫さ、竜也。俺が植え直しちゃる」
淳はそう言うと、引き抜かれた苗を植え戻した。
「大分育ったな」
西村が淳を手伝う。竜也はスマホとスピーカーを繋いだ。何時もの優しい音楽が復活して、場は静けさを取り戻した。
「とんだ災難だったわね。でも、これ位で済んで良かったわ」
明里が溜め息をついて、ベンチに座る。
「海野。俺は段々、楽園の意識とやらが分かってきたよ」
西村は竜也の肩を叩いた。
「エデンっていうのは、穏やかで、平和で、同時にあらゆる可能性に満ちた空間なんだと思う。まだ世間の汚濁を知らない幼い子供が、常に生き生きとした躍動感に満ちている様にな。俺は大人になってから、そういう気持ちを忘れていたよ」
「今の時代は、皆そういう気持ちを思い出していくサイクルに入っていると思うんです」
竜也はベンチに座ると、音楽のボリュームを上げた。
「楽園の記憶さえ回復出来れば、争いも無くなると思う。至福の中を漂う方が良いに決まってる」
「さっきみたいな奴等もか?」
「何時かは、彼等だって気付く筈です。人間なんだから」
ナナがやって来た。ナナはニャーと甘えた声で鳴くと、竜也の脚に体を擦り付けた。
竜也は最近場のエネルギーが高揚しているのを感じていた。言葉で説明するのは難しいが、密度の高い空間が押し寄せて、辺りを圧迫しつつ、心身の緊張を解放するような、そんな感じがするのである。思考は溶けて、ただこの空間に身を委ねていればそれで良い様な、そんな楽観的な空気が漂っていた。
竜也は明里を見つめた。最近の明里は以前にも増して、瑞々しく輝いている。可憐でありながら力強い生命の煌めきを竜也は感じた。爆発すれば良い! その溢れる生命力の弾ける噴射で、宇宙まで還るのだ! 竜也はムクムクと力が湧いてくるのを感じた。これは愛だ。宇宙からの。エデンからの呼びかけだ。子らよ帰っておいで、と。その声は優しくて、竜也の胸を柔らかく撫でていく。
「海野先輩、どうしたんですか?」
黙り込んでしまった達也に夏美が声をかけた。
「う……いや、エデンもいよいよ軌道に乗ってきたなって、感動してたんだ」
「そうですか……」
「ところで、仮に宇宙に行けたとして、何がしたいかしら?」
明里が皆に訊ねる。
「そうだな、俺は超新星が見ていたいかな」
淳がワクワクしながら言う。
「私は流星群が見たいです」
夏美が空を見つめて答えた。
「俺は、そこら中を旅してみたいよ」
竜也が夢見る目をして言った。
「よし、今日は皆で宇宙についての詩を書こうじゃないか」
「詩ですか?」
「そうさ。美しい思いはきっと宇宙に届く筈だよ。ここにノートを持ってきたから、順番に書いてくれ」
竜也はブルーのノートとシャーペンを明里に渡した。
「待って……今考えてる」
明里はしばらく考えると、おもむろにノートに書き始めた。
「読んでみて下さいよ」
夏美が急かす。
『宇宙 そこは未知の美が待つ 星の流れに身を任せて 私は一つの光になる』
読み終わると、明里は少し恥ずかしそうに笑った。
「素敵じゃないですか!」
夏美が手を叩いてはしゃいだ。一同は順番にノートに詩を綴っていき、最後に竜也の番になった。
『超新星の爆発 凄まじいエネルギーの放射 世界の母が見守る中で エデンは拡大してゆく』
「竜也らしいな」
淳はそう言うと、ナナを抱いて膝に乗せた。
「何か、詩を書いていると、宇宙の息吹の躍動に乗って行くような感じですね!」
夏美が興奮して叫ぶ。
「上手いこと言うな、夏美ちゃん。誉めて遣わす」
淳は夏美の頭を良い子良い子した。
「もー、止めてくださいよ」
夏美の頬が真っ赤になる。皆はどっと笑って、今日のエデンはお開きとなった。