未来の種
「いや、俺も別れたから。」

「エェ‼︎ そうなの⁉︎
…ごめん。知らなかった…。」

「俺はもう完全に吹っ切ってるからいいんだ。彼女は商社勤めでね、転勤したんだよ。2年前に。で、遠距離になって、彼女が向こうでいい人を見つけたってだけの話。」

「公親くん…」

「別れる、って決定的になる前から、もう彼女が冷めてるのはわかってたんだ。久しぶりに会っても上の空だし。俺から切り出す勇気がなくて、ズルズル終わりを引き延ばしてただけだったから。正直、別れた時はスッキリした気分だった。まあ、距離に負けたんだよ。」

「そっか…。
遠距離は……難しいよね…」

「美衣子と優は違うだろう?」

「え? なんで? 同じじゃない⁇
私は遠距離になる前に見切りをつけたけど…」

「違うよ。全然違う。
たとえ、距離があったとしても、何年離れていたとしても、2人は変わらないよ。んー、俺たちとはレベルが違う?」

レベルって…なにそれ。

「昔さ、見たことがあるんだ。いや、覗くつもりはなかったんだ。ただ、音楽室からなんか凄いピアノの音が流れてきたからさ、なんだろう?って好奇心で。そしたら、優と美衣子が一緒にピアノを弾いてた。2人とも、真面目に演奏してるのに、お互いしか見えてないって感じでさ。イヤラシイことも、なーんにもしてないのに、見ちゃいけないものを見てしまった気分だった。なんか、純愛っていうか…2人の絆の深さを見せつけられた感じがした。…勝手に覗いたんだけどな。」

「……」

連弾して遊んでた時だよね?
…見られてたんだ。
見られて困るようなことしてたわけじゃないけど。イヤラシイことなんてしてないし。でもたしかに、周りは見えてなかっただろうな…あの頃の私達は。

< 33 / 91 >

この作品をシェア

pagetop