未来の種
緊張してるのかな。緊張…するよね。検査はきっと痛みを伴う。それに、検査の結果によっては……。



ピンポーン



「あ、届いたな。ちょっと待ってろ。」

そう言って玄関に向かった兄は、大きなトレイを持って戻ってきた。

「朝食、昨日のうちに頼んでおいたんだ。
早く食べよう。
ここのチーズオムレツは最高なんだ。」

「え、朝食頼んでたの⁉︎
それくらい、私が作るのに。」

「作るって、材料もなしにか? 
冷蔵庫見ただろう?」

確かに、飲み物しか入ってなかったな…。

「…こんなに便利だと、春に戻るの嫌になっちゃうね。香ちゃんとこっちに移り住んだ方がいいんじゃない?」

「それも考えてる。あいつ、家事苦手だし。
大学院卒業したら、こっちに移住すると思うな。」

香ちゃんとは廣澤香(ひろさわこう)、昇平の婚約者だ。付き合って7年目で、この夏にプロポーズしたところだ。
香ちゃんもドクターで、研修医2年目。お式は来年の夏くらいを予定しているらしい。とても綺麗な女医さんで、大学時代から優秀な人だったらしい。
ところが、人間得手不得手があるもので、料理はかなり苦手だそうだ。そんな医師同士の忙しいカップルに、ここは最高の環境だろう。

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