色のない世界に恋のうたを

それから2ヶ月が過ぎ、暦の上では皐月となった。
務は順調に遂行しており、来月に茶会へ出席するため京へ向かうという文を弓にくくり、 門より外の木へと放った。
文が外の忍びの手に渡ったことを確認して、弓矢を川へ捨てる。
そして何食わぬ顔をして女中の仕事へ戻ると、赤井殿がこちらへやってきたのが見えた。

『こんにちは、結桜ちゃん』
「赤井殿、今日はいつになくご機嫌ですね」
『今度の京の茶会に同席出来ることになったんだ』
「…赤井殿が、京へ?」
『そう。上様の傍につかえさせて貰えるんだ』
「行ってはなりません!」
『…結桜ちゃん?』

突如大声を出してしまったことに、赤井殿も、そして私も驚いた。

「…その、私の話し相手が居なくなってしまうのは、嫌なのです…」
『ふふ、可愛らしいね。でもせいぜい2週間ほどで帰ってこられるだろうから、それまで待っていて?』
「…はい」
『そんな結桜ちゃんにはこれあげる』

そう言って、髪飾りを渡してくれる。

「いいのですか?」
『さっき市で見つけたんだ。結桜ちゃんに似合うと思ってね』
「嬉しいです。ありがとうございます」
『じゃあまた』

彼の後ろ姿を見るのはとても悲しかった。
京でおこる謀反に彼を巻き込みたくなかった。
この髪飾りが、彼の形見となるのかと思うと、寂しくて仕方がなかった。

その翌日に私は城を出た。
京へ行く手段、経路、そして宿となる本能寺の情報も全て手に入れることが出来たからだ。
これからは戦闘に備え、準備をする必要がある。

____天正10年6月1日。

ついにこの日がやってきた。
織田信長が引連れた軍が本能寺に寝静まった頃、矢をもって火を放つ。
燃え盛る炎に男たちが逃げ惑う声が響く。
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