色のない世界に恋のうたを
(信長の首を探せ)
そう命じられて炎の中へ飛び込む。
死ぬことなど怖くはなかった。ただ…
『動くな…』
彼に会うことだけが怖かったんだ。
『やはりくノ一であったか』
「くノ一などでは無い。私に女という性で育てられた覚えはない」
『京へ行くと言ったあの日、君が文のついた弓矢を1発で遠い的へ当てるのを見て、君が忍びであるという疑念を抱いた』
「ではなぜその場で私を殺めなかった!」
『それだけでは確証がなかった。 …それに、信じたくなかったんだ』
「なぜ?」
『君が見せる笑顔を全部嘘だと思いたくなかった。 少しでも希望があるなら戻って欲しかった』
「戻るも何もない。私は生まれてからずっと忍びだ」
胸が、痛い。
あなたになら殺されてもいいと思っている自分がいる。
彼が刀を抜く。
いつもの格好とはまるでかけ離れた黒ずくめの私に近づく。
私も両刀を抜き、構える。
『君にいつからか惚れていた。初めてあった時からだろうか。 君もまた、私に好意を持ってくれていると自惚れた瞬間があった。 …京へ行くと告げた時だ。君はもう既に謀反の計画を知っていたはずだ。なぜ私を止めた?』
「…そんなことなど覚えてはいない」
『忍びは人間の感情がないと書物で読んだことがある。 でも感情がないのであればなぜ直ぐにでも私を斬らないのだ』
「…それは、」
『君も、私に好意があるからなんじゃないのか?』