色のない世界に恋のうたを

『志乃ちゃんに会いたかった』
「うん」
『志乃ちゃんはさ、俺に会いたかった?』
「…うん、」
『ふふ、素直だね。可愛い』

いつの間にか抜かされた身長を再度示すかのように、長い腕が私の頭を撫でる。
そしていつの間にか、一人称が俺になってる。

「俺、なんて言うんだ」
『学校では俺だよ?』
「私の前では僕じゃない」
『それは甘えたい時限定なの』
「じゃあ今は甘えたくないの?」
『今は俺にドキドキして欲しい』

撫でた腕が今度は私の肩にまわり、ぎゅっと彼の胸に引き寄せられた。

『ドキドキする?』
「なんで、こんなこと…?」
『4歳も離れてるとさ、弟として見られてる気がして嫌なの。でも年の差は埋まらないから』
「…」
『嫌なら押し返して。何も言わずにされるがままなら俺、期待しちゃうよ?』
「期待してよ」
『え?』
「こないだ篤志が同級生の女の子と歩いてるの見てヤキモチ妬いて、 友達に悩んでるの見てわかりやすいって笑われた」
『ふふ、可愛い』

まだ少し肌寒い夜。
街灯が私たちを照らしている。
影が重なったまま、私たちは思いをぶつけあった。

『俺じゃ、だめかな?』
「篤志がいいの」

気持ちは隠すものではなく表すものなんだと、 年下の君に教えてもらった。
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