色のない世界に恋のうたを
『負けたで。崇徳院は殺されへんかったけどその代わり、讃岐っていう国に島流しに合った。 廷内での記憶は断片的やけど、島に流されている時のことははっきり覚えとる。 辺りが1面海で、どこにたどり着くかもわからん。 ただ流されて流されて、知らん土地にたどり着いてん』
「辛い前世だったんだね」
『そんな辛い現実でな、和歌を詠むことだけが生きがいやった。 ちょっと待っててな』
そう言うと立ち上がって、書斎からひとつの本を取り出してきた。
百人一首、そう書いてある本を。
『中学の授業で知ったんやけど、前世で詠んだ記憶のある歌が百人一首に載っててん』
「ほんとだ。恋のうただ」
『…まあほんまは恋のうたやなくて、自分の人生をやり直せたら、今度はきっといい人生を送ってみせましょうって意味やねん』
「風刺的な意味が込められた歌、なんだね」
『まあ、生まれ変わるのにこんなに時間かかってしまってんけどな』
少し悲しい顔をして笑う直樹に胸が締め付けられた。
「直樹、今幸せ?」
『幸せやで。史瀬が傍におってくれるだけで』
なんだか彼の前世の記憶ごと全部包んであげたくなって、私は彼をおもわず抱き寄せた。
少しびっくりしていたけど、彼も私の背中に優しく手を回す。
「私も直樹がいて幸せだよ」
『史瀬の傍から離れるなんてそんなことはせんよ。 もし仮に2人の間に障害ができても、必ずその壁乗越えて迎えに行くから』
「うん、」
『今世では、自分の幸せは絶対離されへんから』
「うん、」
『俺を幸せにしてくれる史瀬のことも離さへん』
「私も直樹のこと離さない」