この世界の魔王はツンでクールな銀髪美少年だ
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私が魔王城で魔王専属メイドになってから十日が過ぎた。
魔王城でのメイド生活は、ぶっちゃけ日本でOLやってた時よりもこっちで聖女やってた時よりも快適だ。
労働条件は8時から18時までの勤務時間で週5日。休憩あり、制服支給あり、まかない付きで住み込み可。お風呂にだって毎日入れる。聞くところによると労災や育児休暇なんかの制度もしっかりしてるらしい。
尚かつ、婚カツのために家事スキルを磨いてきた私にはメイド業はなかなか性にあっていた。
(聖女の時は猫被りまくってて気疲れハンパなかったし、野宿もさせられたからな……。あのボンクラ王子、絶対旅費ケチってたでしょ)
勢いで魔王に雇えと迫ってしまったものの、後から冷静になって考えると魔族の国の風習や食生活についていけるのか、今まで聖女だった私が同僚とは上手くやっていけるのか。不安がどっと押し寄せてきた。このカッとなりやすい性格のせいで今まで何度後悔してきたことか。
……けれど実際に働き始めてみるとそんな心配は杞憂だった。魔族の人たちは、みんな私が王子たちに利用されているのを知っていて、同情的だったのだ。
(確かに旅してても魔物が私だけ襲って来ないなー? とは思ってたんだよね。聖女のオーラかなんかで近寄れない。とかじゃなくて別の理由で私には手を出して来なかったのか)
そしてラッキーなことに、食文化や習慣もほぼ地球と似ていて、海外旅行をしている時の違い程度しか感じずに済んでいる。
なんならお城の内装や調度品なんてピエレオスの城より綺麗で豪華だ。これが財力と資源の豊かさの差か。
(魔王城って言うからドクロとか真っ黒な十字架とか飾ってあってコウモリが飛び回ってる感じとか想像してたけど……)
金と白を基調にした城内の各所にはめ込まれたステンドグラス。庭園の豊かな緑。咲き誇る季節の花。噴水。舞う蝶に唄う小鳥。
日本人の私の感覚からしたら、魔王城は楽園にある聖なるお城みたいだ。
(さすがに働いてる人たちの外見には最初ちょっとビックリしたけどね)
額から角の生えた初老の執事。一つ目のメイド長。全身が鱗に覆われた門番。二足で歩き人語を話す猫。炊飯器サイズのピンクのクラゲ。小さな妖精。働き者のドワーフ。
でもみんな、姿が違っていても快く私を新人メイドとして迎えてくれた。仲間に裏切られていた私を気づかってくれた。都合も聞かず聖女として放り出した人間たちよりも、よっぽど温かった。
「あ、リノいた! ヴァルシュ様が執務室で呼んでるヨ!」
勤務初日の自己紹介の時の同僚たちの笑顔を思い出して涙ぐみながらモップがけをしていると、メイド仲間のクミンがパタパタと廊下を走って来た。
獣人族のクミン。猫耳と八重歯が可愛らしい女の子。私とお揃いのメイド服も、クミンが着ているとまた違った魅力がある。
「……萌え~」
「? なにソレ。リノの言葉は時々ムズカシイね」
「はっ。ごめんごめん。クミンが可愛くて、つい。ヴァルシュが私を呼んでるのね? 教えてくれてありがとう」
「たぶんお茶が飲みたいんだと思うヨ」
「げ。……お茶かぁ。うん、まぁ頑張るわ」
「行っテらっしゃーい」