この世界の魔王はツンでクールな銀髪美少年だ
「……リノはまだ『婚カツ』をしたいわけ?」
「う、そんなため息つかないでよ。だって『いつか王子様に迎えに来てもらってお嫁さんになる』のが私の小さい頃の夢だったんだから仕方ないじゃない。みんなと同じにしなきゃ! って焦りは消えても、夢の方はなかなか諦められないのよ」
「王子様って王族? 王族の数から考えると非現実的な夢に思えるけど?」
「ちーがーうの! 実際の王族じゃなくても良いから、私をお姫様にしてくれる運命の相手を見つけたいの! 日本に帰る手段が未だに見つからないんだから、腹くくってこっちの世界で王子様を探すしかないじゃない!」
そう、今考えると恐ろしいことだが、元々あのボンクラ王子と恋愛関係になっていたらこの世界に骨を埋めるつもりだったのだ。多少の転職ハプニングぐらいで理想の結婚相手を諦めるわけにはいかない。
「ふぅん……。異世界の人はみんなリノみたいに王子様を探してるの?」
「ううん、私は特にお姫様願望が強い方だと思う。あのね、子供の頃に見たアニメの王子様がすごい素敵だったの」
「『アニメ』?」
「んーと、動く絵に声や音楽がついてるお話って言うか」
「魔法みたいだね」
「そうなの! 本当に、魔法みたいだったの!」
子供の頃に見た物語の王子様。悪い魔女に囚われたお姫様を救いに来た彼は跪いて姫に永遠の愛を誓う。
何度も何度も、そのシーンを繰り返し見てはいつか私も……と夢見ていた。
「けど現実は上手く行かないんだよねぇ……。この流れで言っちゃうけどさ、私、彼氏と長続きしなくて。『おとなしそうな子だと思ったのに』ってフラれちゃうの。第一印象とのギャップが有りすぎるんだって」
その言葉を聞いてヴァルシュが吹き出した。
普段クールな少年魔王がめちゃくちゃ笑っている。涙を流して笑っている。……笑いすぎじゃない?
「リノがっ! おとなしい! え、君の彼氏たちの目は節穴なの。リノを大人しそうと思うなんてどうかしてるんじゃないっ? リノは魔王を杖で殴るような女なのに!」
「あれは非常事態だったからなの! 普段の私は! もっとおしとやかにしてるの!」
「それで素と差があり過ぎてフラれるんなら努力の仕方を完全に間違えてるよね」
「ぐっ」
今までの歴代の彼氏。
自分から告白したことも、相手から告白されたこともどっちもあった。
けれど誰とも1ヶ月以上続いたことがない。
『もっと静かな子かと思った』
『けっこう言葉使い悪いんだね』
グサグサと過去に言われた言葉が今さらまた突き刺さる。
「……でもまぁ、僕は今の生き生きしてる君の方が良いと思うけどね。そのままの君が好きだって男も現れるかもしれないよ。運が良ければ。君の運が良いようにはあまり見えないけど」
「美少年マジ塩対応……。一部の方たちに『我々の業界ではご褒美です』って言われそうなくらい塩対応。なのに慰めが心に染みる……あ、王子の流れで思い出すのもシャクなんだけど、あれ以来ボンクラ王子どもは何か仕掛けたりしてきてない? 大丈夫?」
「偵察によれば奴等はちゃんとピエレオスに向かってるってさ。もし奴等が何かしてこようとしても、本来なら悪意のある人間は僕の結界でこの城まで入って来られないようになってる」
「え、最初の時、拍子抜けするくらいあっさり玉座の間まで行けたよ?」
「僕のためにわざわざ召喚された『聖女サマ』を見てみたかったからね。リノと一緒じゃなかったら王子たちはこの城の壁に触れることすらできないよ」
「なるほどー。何それ私のために結界を解いてたってことじゃん超運命的じゃんウッカリちょっとときめきそうになったわー……」
この世界の魔族全てを統べる銀髪の魔王ヴァルシュ。
その彼を倒すためにこの世界に喚ばれた聖女。
これだけ聞いたらまるで物語の主人たちみたいじゃない。
「何を考えてるか知らないけど遠慮します」
「だからまた敬語?! ……あーあ。このまま王子様が見つからなかったら、あっという間に次の誕生日が来て、また処女歴更新しちゃう……」
「ちょっ、いきなり何言ってるの?!」
私の嘆きを聞いたヴァルシュが白い頬を紅潮させて飛び退く。
しまった。婚カツや萌えが伝わらないから、これもわからないかと、ついポロっとこぼしてしまった。
昼間っから少年に生々しい下ネタを聞かせてしまって申し訳ない。そう謝ろうとしたけれど、ヴァルシュの姿はもうそこにはなかった。
そしてその日以来、私はヴァルシュに避けられるようになってしまったのだ。
「う、そんなため息つかないでよ。だって『いつか王子様に迎えに来てもらってお嫁さんになる』のが私の小さい頃の夢だったんだから仕方ないじゃない。みんなと同じにしなきゃ! って焦りは消えても、夢の方はなかなか諦められないのよ」
「王子様って王族? 王族の数から考えると非現実的な夢に思えるけど?」
「ちーがーうの! 実際の王族じゃなくても良いから、私をお姫様にしてくれる運命の相手を見つけたいの! 日本に帰る手段が未だに見つからないんだから、腹くくってこっちの世界で王子様を探すしかないじゃない!」
そう、今考えると恐ろしいことだが、元々あのボンクラ王子と恋愛関係になっていたらこの世界に骨を埋めるつもりだったのだ。多少の転職ハプニングぐらいで理想の結婚相手を諦めるわけにはいかない。
「ふぅん……。異世界の人はみんなリノみたいに王子様を探してるの?」
「ううん、私は特にお姫様願望が強い方だと思う。あのね、子供の頃に見たアニメの王子様がすごい素敵だったの」
「『アニメ』?」
「んーと、動く絵に声や音楽がついてるお話って言うか」
「魔法みたいだね」
「そうなの! 本当に、魔法みたいだったの!」
子供の頃に見た物語の王子様。悪い魔女に囚われたお姫様を救いに来た彼は跪いて姫に永遠の愛を誓う。
何度も何度も、そのシーンを繰り返し見てはいつか私も……と夢見ていた。
「けど現実は上手く行かないんだよねぇ……。この流れで言っちゃうけどさ、私、彼氏と長続きしなくて。『おとなしそうな子だと思ったのに』ってフラれちゃうの。第一印象とのギャップが有りすぎるんだって」
その言葉を聞いてヴァルシュが吹き出した。
普段クールな少年魔王がめちゃくちゃ笑っている。涙を流して笑っている。……笑いすぎじゃない?
「リノがっ! おとなしい! え、君の彼氏たちの目は節穴なの。リノを大人しそうと思うなんてどうかしてるんじゃないっ? リノは魔王を杖で殴るような女なのに!」
「あれは非常事態だったからなの! 普段の私は! もっとおしとやかにしてるの!」
「それで素と差があり過ぎてフラれるんなら努力の仕方を完全に間違えてるよね」
「ぐっ」
今までの歴代の彼氏。
自分から告白したことも、相手から告白されたこともどっちもあった。
けれど誰とも1ヶ月以上続いたことがない。
『もっと静かな子かと思った』
『けっこう言葉使い悪いんだね』
グサグサと過去に言われた言葉が今さらまた突き刺さる。
「……でもまぁ、僕は今の生き生きしてる君の方が良いと思うけどね。そのままの君が好きだって男も現れるかもしれないよ。運が良ければ。君の運が良いようにはあまり見えないけど」
「美少年マジ塩対応……。一部の方たちに『我々の業界ではご褒美です』って言われそうなくらい塩対応。なのに慰めが心に染みる……あ、王子の流れで思い出すのもシャクなんだけど、あれ以来ボンクラ王子どもは何か仕掛けたりしてきてない? 大丈夫?」
「偵察によれば奴等はちゃんとピエレオスに向かってるってさ。もし奴等が何かしてこようとしても、本来なら悪意のある人間は僕の結界でこの城まで入って来られないようになってる」
「え、最初の時、拍子抜けするくらいあっさり玉座の間まで行けたよ?」
「僕のためにわざわざ召喚された『聖女サマ』を見てみたかったからね。リノと一緒じゃなかったら王子たちはこの城の壁に触れることすらできないよ」
「なるほどー。何それ私のために結界を解いてたってことじゃん超運命的じゃんウッカリちょっとときめきそうになったわー……」
この世界の魔族全てを統べる銀髪の魔王ヴァルシュ。
その彼を倒すためにこの世界に喚ばれた聖女。
これだけ聞いたらまるで物語の主人たちみたいじゃない。
「何を考えてるか知らないけど遠慮します」
「だからまた敬語?! ……あーあ。このまま王子様が見つからなかったら、あっという間に次の誕生日が来て、また処女歴更新しちゃう……」
「ちょっ、いきなり何言ってるの?!」
私の嘆きを聞いたヴァルシュが白い頬を紅潮させて飛び退く。
しまった。婚カツや萌えが伝わらないから、これもわからないかと、ついポロっとこぼしてしまった。
昼間っから少年に生々しい下ネタを聞かせてしまって申し訳ない。そう謝ろうとしたけれど、ヴァルシュの姿はもうそこにはなかった。
そしてその日以来、私はヴァルシュに避けられるようになってしまったのだ。