すてきな天使のいる夜に〜2nd Sstory〜
「泣いたりする姿は、何度か俺も見てきたけど、そこに怒りや苦しみの感情は中々見せることは無かったんだ。
自分の感情のコントロールをすることが、沙奈にとっては1番得意で、それが時に悪い方へと行ってしまうことも多かった。
兄として、早めに沙奈を子供へ戻すことが出来なかった俺にも責任がある。」
紫苑は、長男としての責任を強く感じているように思えた。
気づくと俺は、沙奈のことを優しく抱きしめていた。
こと切れたかのように泣き、疲れてしまったのかぐっすり眠る沙奈。
それに安心したかのように、冨山さんは静かに笑みを見せ、病室を後にした。
今夜は、沙奈を1人には出来ないと紫苑達と沙奈の眠りを見守るために病室に泊まろう。
それから、夜明けまで沙奈は目が覚めることもなくぐっすりと眠っていた。
日が昇り、俺たちは順番に起き準備を始めた。
「沙奈、昨日は1度も目を覚ますことなくぐっすり眠れたみたいだな。」
沙奈の手を繋いでいると、沙奈は体を半分だけ起こした。
「紫苑…?」
小さい子供のように、俺に手を伸ばし抱きしめてきた沙奈。
これは、反則だろう?
理性が吹き飛ばされそうになったけど、なんとかこらえることができた。
「まだ、頭が起きてないのかな。」
そう言い聞かせることで精一杯だ。
「大翔のこと、俺と間違えてるみたいだな。
ごめん、俺が変わるよ。」
「いや、大丈夫。
このままで。」
俺は沙奈に答えるように優しく抱きしめた。
腕の中で、再び沙奈は眠りに落ちていた。
「初めて見た。
自分から、こんなことする様な子じゃないから。
誰かに求める様子なんて、初めて見た。
何か、少しほっとしたよ。」
昨日のことがあったから余計だろうか。
沙奈は今、何を考え何を感じているのだろうか。
「お母さん…。」
そう言って、一筋の涙を流す沙奈。
「時々、こうやって夢を見て涙を流すことがあるんだ。
お母さんの夢を見ているのかもしれない。
父親の記憶よりも遥かに薄いはずの母親の記憶が、きっと沙奈にとって1番濃く残っているんだろうな。
沙奈が産まれた時に、命を落としたと聞いたけど、きっと沙奈にとってはお腹の中にいた時の記憶がまだ残っているのかもしれないな。」
紫苑の言葉に、胸が苦しくなった。
亡くなった人は、決して戻ってくることはない。
沙奈はきっとどこかで、母親の愛情を求めていたのかもしれないな。