恋獄の鎖
 その後、夜会であの青年を見かけることはなかった。

 何しろわたくしが社交界にデビューしたこの四年の間に、顔を合わせた記憶がただの一度もないのだ。それを多少気にかけるようになったところで再会できるほど、世の中狭くはなかった。

 それでも無意識の内に探してしまっている自分に嫌悪と戸惑いを感じながら、わたくしはいるかどうかも分からないたった一つの姿を自然と追いかけている。


 そんな日々を三か月も過ごす頃、そもそもの交友範囲が違うのではないかと思いはじめた。

 あの夜会だってお父様に言われて仕方なしに出席した夜会だもの。普段のわたくしなら招待主の名を見ただけで捨て置いているわ。

「ごきげんようシェラフィリア様。まさかブライド伯爵の夜会でお会いするなんて思いませんでしたわ」

「ごきげんよう」

 試しにわたくしと交友のない相手から招待された夜会へ行ってみれば、友人と言って差し上げても良い程度には親しくしている令嬢が一人いただけだった。

 夜会自体も、伯爵家主催のものにしては良く言えば慎ましい、悪く言えば質素なものだ。


 それでもわたくしは人目を惹き、夜会の間は絶えず令息や令嬢に囲まれた。

 でも求めるものはそんなものではない。

 自らへの称賛なら人前に出ればいつでも、いくらだって得られるのだもの。

(やっぱり退屈なものね)

 ふとした弾みで吐息がこぼれそうになるのを懸命に押し殺す。

 本来なら気乗りしないであろう人物に招待された夜会に出るのは、三回目の今回でもう終わりにしよう。

 不確かな要素に縋ることに疲れた、そんな最中でのことだ。

 あの青年が夜会に姿を見せた。

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