恋獄の鎖
 自らの血を分けた娘なのだ。そんなティエラディアナが可愛くないわけがない。愛しくないわけがない。

 けれどわたくしは、わずかに残された時間の中でも母親という存在にはなれそうもなかったし、なれはしないのだろう。

「ねえティーナ、知っていて?」

 わたくしが話しかけると、お気に入りの紅茶を淹れて読書を嗜むティエラディアナはほんの一瞬、その愛らしい顔を嫌悪でひそめる。

 子供は親を見て育つというのは本当なのね。わたくしと良く似た顔で、ミハエルと良く似た反応を示すのだもの。

 ただ夫と違って、その仕草が気取られているとは気がついていない。わたくしは娘のそんな、年頃の少女特有の潔癖さが好ましくもある。


 そうね。あなたにとって、わたくしもミハエルも、決して褒められた親ではないでしょう。

 わたくしたちは夫婦としてとても未成熟で、親になんてなれるような状態ではなかった。それでも、あなたのことは可愛い娘だと思っているの。本当よ。


 そんな娘の視線は時折、不思議そうにわたくしの右手首に注がれる。

 不思議に思うのも無理はないわね。年頃のあなたならまだしも、わたくしが身につけるにはあまりにも子供っぽいデザインのブレスレットだもの。

 だけどいつか、これはわたくしの宝物なのと、あなたに笑って話せる日が来るかしら。


 ――きっと、来ないわね。

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