恋獄の鎖
 ティエラディアナが母親である自分ではなく初めての恋人の手を取り、ミハエルは妻である自分でも、あんなに愛していたはずの初めての恋人でもない女の手を取ったことで、わたくしは一人きりになった。


 かつては”可憐な白百合”と呼ばれて大勢の人間に囲まれ、持て囃されていたことが嘘のようだ。

 夜会に顔を出さなくなって久しいが、列席さえすればいつだって当時と同じかそれ以上の称賛は得られるだろう。

 けれど今はもう、見てくれだけは華やかな時間を求めて夜会に一人繰り出す気には、全くなれない。


 その代わりと言うわけでもないが、眠る前にアルコールを口にするようになった。

 最初の夜は白ワインを開け、次の夜は赤ワインを開ける。元々、医者からアルコールの摂取を禁止されている身だ。だからこれまでは夜会に参加しても最初の一口に付き合う程度だった。

 別にアルコール自体に弱いわけではないのだと思う。でも飲み慣れないせいか、グラスの三分の一ほどを開ける頃には気を失うように眠ってしまい、そんな状態はわずかに眠りが深くなった気がした。

「奥様は幼少の頃より心臓を患っておられるのですから、あまりアルコールを嗜まれぬほうがよろしいかと存じます」

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