恋獄の鎖
 日増しにアルコールの摂取量の増えるわたくしを見かね、せめて量はもう少し控えるようエバンスとアンナが嗜める回数も増える。

 実の娘のように心配してくれているのは分かっていた。

 分かってはいるが、わたくしはアルコールの摂取をやめることはできない。

 他に、病とは違う胸の痛みを和らげてくれるものがないのだもの。

「主人であるわたくしの言うことが聞けないと言うのなら、あなたたちは使用人失格よ。今すぐ辞めて新しい主人を探せばいいわ」

「奥様……!」

 瞬時にして顔色を変える二人に、わたくしは冷酷に言い放った。

「それとも、こう言えばいいのかしら? あなたたちはたった今を持ってクビよ。不法侵入者として警察に突き出されたくなかったら、さっさとこの家を出て行くことね」

 こんな脅しの言葉など彼らにとって何の効果もないだろう。

 そこで一度口を閉ざすと、ただ青ざめながら女主人の言葉を聞くしかない二人に聖母のように微笑んでみせる。

「――ああ、どうしても出て行きたくないのであれば、退職金代わりに差し上げるわ。わたくしが出て行くから好きに使って下さって結構よ」

 そうまで言われてはエバンスとアンナは出て行くしかなかった。主を屋敷から追い出すことなど、それこそ従順な執事夫妻にできるわけがない。

 わたくしの説得も無理な話なのだ。

 それができるくらいならミハエルとの結婚も止めることができていただろう。

「奥様……私ども夫婦はいつまでも、奥様とティエラディアナお嬢様の味方です。もし何かありましたらお申しつけ下さればいつでも馳せ参じます故」

 そして誰よりも長い時間傍にいてくれた執事夫妻すら、わたくしの前からいなくなった。

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