恋獄の鎖
 静まり返った屋敷は、まるで巨大な鳥かごのようだ。

 わたくしという哀れな鳥を閉じ込める為の、無機質で空っぽな何もない箱がただそこにある。

 けれどもシェラフィリアはとうに翼を失って飛べやしなかった。いつ翼を失ったのか、あるいは最初から翼など持ってはいなかったのか。それさえも自分では分からない。そうでなくとも手首に細く重い鎖を繋げられ、どこにも行けやしないのだ。


 このまま自分は、一人孤独に果ててしまえばいい。

 それは決して、リザレットとミハエルを無理やり引き裂いたことへの罪悪感に駆られて思ったわけではなかった。そんな殊勝な考えは持ち合わせていないし、何よりも自らの矜持にかけて持つつもりもない。


 何を手に入れたところで、欲しいものがなければ何もないのと変わらないのだ。

 今のわたくしにはもう、欲しくないものをそうと気づかずに貪欲に欲しがり、抱え込むだけの力はない。

 ならば、手の中には何一つなくて良かった。


 だけど愛情らしいものをまるで注いでやれなかった娘と、長年仕えてくれていたのに理不尽に切り捨てた老執事夫妻は戻って来た。


 わたくしにとって、愛情は与えるものではなく与えられるものだった。

 だから娘であるティエラディアナと、使用人であるエバンスとアンナが戻って来るのは当然とも言えた。

 だけど、誰かが傍にいてくれる。

 その事実だけで泣きたくなるのは何故だろう。死を間近にすると人は、人の考えは変わるのか。

 理由は分からなくても、わたくしの心は穏やかだった。

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