恋獄の鎖
 家に戻り、こうしてわたくしの療養の為に王都を離れたということは、娘は恋を失ったのだろう。

 おそらくは恋人の母親と、わたくしたちの間にあった過去を知ったに違いない。

 あの子は優しい子だ。わたくしに恨み言をぶつけたりはしない。


 でもね、わたくしの可愛いティーナ。

 手に入れたいのなら簡単にあきらめてはだめよ。

 それがひと時でも手に入っていたのなら、絶対に逃がしてはだめ。


 リザレットの息子がティエラディアナの居場所を聞きにお兄様の元を何度か訪れていると聞いた。

 彼はティエラディアナがミハエルとわたくしの間に生まれた娘だと知りながら、あの子を愛してくれたのだ。

 そして今も、これからも変わらずにずっと、ティエラディアナだけを愛してくれるだろう。


 ティエラディアナの想いも未だ彼にあり、変わることはないと分かっている。

 他ならぬ自分の娘なのだ。初めての恋に執着しないわけがない。ましてや、ほんのひと時でも確かな実を結んでいたのだからなおさらだ。


 でも、わたくしが生きている間は祝福してあげられそうにもない。

 いちばん欲しいものを手に入れられる娘に強い嫉妬の念を覚えてしまう。

 最後まで一人の女であることを選び、そうありたいと強く望むわたくしは、母親にはなれない。


 それでも母として最初で最後の贈り物を、愛情を示してやることは一度たりとてできなくても、愛する娘に遺してやりたいと思ったのだ。

 お兄様には、それをティエラディアナに伝えないよう頼んでもある。もちろんリザレットの息子にも同様だ。


 一年後には、ティエラディアナは幸せに満ちた笑顔を浮かべているだろう。

 母親として見届けられないのは残念だ。


 でもやはり――女として、いちばん欲しいものを手に入れて幸せそうに微笑む姿は、娘のものでも見たくないの。

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